東京電力福島第一原発事故後に脱原発を掲げ、市民らがつくった発電会社「会津電力」(福島県喜多方市)が、地元の森林を活用したバイオマス発電に乗り出す。同社はすでに太陽光や小水力で発電し、年内に風力発電も始める。バイオマスが将来加われば4種類の再生可能エネルギーが実現する。地域の発電会社がこれほど多様な方法で発電するのは珍しい。政府が原発推進にかじを切る中、地方の豊かな自然を生かせば再エネ拡大の余地が大きいことを示している。
◆木々も雪もエネルギーのかたまり
1月下旬、田畑も山も真っ白な雪で覆われた喜多方市。会津電力の磯部英世社長が山を指さして言う。「木々も雪もエネルギーのかたまりです」
同社は「原発に頼らない発電をしよう」との市民による議論を経て、2013年に発足した。初代社長に地元の造り酒屋当主の佐藤弥右衛門氏(現特別顧問)が就いた。現在、88カ所の太陽光発電所と1カ所の小水力発電所を運営し、風車3基による風力発電の年内始動も決まっている。
バイオマス発電は、木材を砕いたチップを燃やして蒸気やガスを発生させ、タービンを回し発電する。発電時に出る二酸化炭素(CO2)を、会津の山に植林して吸収させるため、CO2排出が将来差し引きゼロになる。会津電力の計画に東北電力は送配電線に受け入れ余地がないとしてきたが、昨年、接続できるめどがたった。
4000世帯分の電気に相当する出力2メガワットの発電設備を設置。固定価格買い取り制度を利用して東北電力などに売電する。チップ燃焼時の熱を企業の暖房などに供給する事業も行う。発電は27年度までに、熱供給は23年度から始める。
磯部社長は「地元に雇用を生み、山林も再生する持続可能なビジネスモデルをつくる」と話す。職員は関連会社を含め約20人いるが、新たに約15人を雇う予定。市町村や個人が持つ山林の管理を引き受ける。樹木を伐採して苗木を植えれば、森林が若返って光合成は活発化し、山全体のCO2吸収も増える。
◆山が生む林や水や風こそ地域の宝
「わが国は山と深い海に囲まれ、再生エネ適地が限られる」。原発の建て替えや60年超の運転容認を盛り込んだ新方針を2月10日に閣議決定した岸田文雄首相は、日本での再エネ開発の難点を強調する。
だが、磯部社長は「山が生む林や水や風こそ地域の宝。それらを生かせば、エネルギーの自給自足は十分可能」と指摘。エネルギー問題に詳しい三浦秀一東北芸術工科大教授も「政府は大企業や中央主導でなく、エネルギーを地産地消する地域発の取り組みの支援を抜本強化すべきだ」と話す。
会津電力 福島県民による勉強会などでの議論を経て、「原発に依存しない持続可能な社会を子供たちに引き継ぐ」の理念のもと、2013年に発足。喜多方市、猪苗代町など会津地方の8市町村のほか地元企業、個人などが出資。現在、太陽光と小水力計89カ所の再生可能エネルギー発電所を運営する。
【東京新聞】