福島県の東京電力福島第1原発事故を巡り、業務上過失致死傷罪で強制起訴された東電の勝俣恒久元会長(82)ら旧経営陣3人の裁判で、検察官役の指定弁護士は24日、一審に続き全員を無罪とした18日の二審東京高裁判決を不服として上告した。指定弁護士は3人に禁錮5年を求刑していた。企業トップの刑事責任を問う裁判は最高裁に審理の場を移す。 3人は勝俣元会長の他、原子力部門トップを務めた武黒一郎元副社長(76)、同ナンバー2だった武藤栄元副社長(72)。「合理的疑いを入れる余地がない」程度の厳密な立証が求められる刑事裁判で一審、二審とも無罪判決が出された中、指定弁護士が上告するかどうかが注目されていた。 二審判決は国の機関が2002(平成14)年に公表し、福島県沖での津波地震の危険性を指摘した地震予測「長期評価」の信頼性を否定。「10㍍を超える津波が襲来する予見可能性はなく、原発の運転を停止するほどの業務上の注意義務は認められない」と一審判決を支持した。指定弁護士の「防潮堤建設や主要設備の津波対策工事をしていれば事故は回避できた」との主張も「証明は不十分で、事後的な情報や知見を前提にしている」と退けた。
指定弁護士は控訴審で、裁判官による原発の現地検証や、長期評価の策定に携わった専門家らの証人尋問を求めた。高裁は「必要ない」としていずれも採用せず、昨年6月の第3回公判で結審した。一審とほぼ同じ証拠に基づき、二審判決が出された。指定弁護士は判決後の記者会見で高裁の訴訟指揮に疑問を呈し、「国の原子力政策に呼応する判決だ」と批判。上告の可否を検討するとしていた。 3人は2008年に東電の子会社が試算した最大15・7㍍の想定津波を知りながら適切な措置を取らず、双葉病院(大熊町)の入院患者ら44人を避難の末に死亡させたなどとして、2016年2月に強制起訴された。2019(令和元)年9月の一審判決は3人に無罪を言い渡し、指定弁護士が控訴していた。 東電の株主が旧経営陣に対して約22兆円を会社に賠償するよう求めた株主代表訴訟では昨年7月、東京地裁が勝俣元会長ら3人を含む4人に13兆円超の賠償を命じた。旧経営陣の責任が争われた裁判で刑事と民事の判断が分かれている。
東電は「指定弁護士が上告したことは承知しているが、当社としてはコメントを差し控える」としている。【福島民報】