東京電力福島第1原発事故による国の賠償基準「中間指針」が9年ぶりに見直されたことを受け、福島県南相馬市は19日、市民間の賠償格差の是正などを求める緊急要求書を東電に提出した。新指針は避難指示区域の内外の賠償格差が拡大する内容になっており、複数の区域が混在した市特有の事情を鑑みるよう訴えた。東電は新たな自社の賠償基準を1月中にも提示する予定で、対応が注目される。
国の原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)は2022年12月に中間指針の見直しを決定。各地域の住民に新たな賠償額を認めたものの、第1原発の半径20キロ圏など避難指示区域での増額が大きく、避難指示区域外では少額で、区域の格差は開いてしまっていた。
市は事故後、警戒区域(20キロ圏内)や緊急時避難準備区域などが設定された一方、30キロ圏外で指定を受けなかった地域もあり、さまざまな区域や地点が混在した。区分による賠償額の差などが住民間の分断を生んだとされる。
市は要求書で「市が住民に一時避難を要請した30キロ圏外の区域については日常生活阻害の精神的損害の増額が示されず、生活基盤変容の損害額も示されなかった」などと指摘し、今回の指針見直しが市内の賠償格差の拡大につながることを懸念。避難した市民も、放射線への不安を抱きつつ自宅にとどまった市民も「同様の苦しみを受けた」と訴え、東電に対し「中間指針の区域割りの基準を絶対とせず、同等の被害実態が存在する場合には同等の賠償を実施すること」と求めた。
要求書は門馬和夫市長や市議会の平田武議長が東京電力ホールディングス(東京)を訪れ、高原一嘉・復興本社代表らに手渡した。また、原賠審にも要望書を提出し、賠償格差の是正などを訴えつつ、さらなる指針の見直しを求めた。【毎日新聞】