東京電力福島第一原発事故後に政府が封印してきた原発の建て替え(リプレース)などを柱とした経済産業省の原発活用案を、同省の有識者会議は16日の会合で了承した。福島事故の収束作業と被災者への賠償が続く中、岸田文雄首相の指示からわずか5カ月弱で原子力政策の転換を明確にした。政府は年内に開くグリーントランスフォーメーション(GX)実行会議で正式決定する。
総合資源エネルギー調査会基本政策分科会で西村康稔経産相は、安全性の確保と立地自治体の理解を前提に「廃止決定した炉の次世代革新炉(次世代型原発)への建て替えの具体化を進めたい」と述べた。
原発の運転期間は福島事故後の法改正で「原則40年、最長60年」と制限されたが、原子力規制委員会の審査などによる停止期間を除くことで60年超の運転を可能にする。政府は、来年の通常国会に改正法案を提出する見通し。
首相は7月末、脱炭素社会に向けたエネルギーの安定供給確保策の検討を指示していた。
◆原発推進を主張する委員が圧倒的多数
東京電力福島第一原発事故から12年を前に、原子力政策は十分な議論がないまま、転換することになった。16日に開かれた経済産業省の有識者会議「総合資源エネルギー調査会基本政策分科会」は、原発の建て替え(リプレース)と60年超の運転を可能にすることを柱とした同省の方針を了承。原発推進を主張する委員が圧倒的多数を占める中、慎重な議論を求めた委員はたった1人だった。
午後1時、東京・霞が関の経産省17階の会議室。委員21人のうちオンラインを含め18人が出席し、3人が欠席した。西村康稔経産相の他、資源エネルギー庁の保坂伸長官ら幹部たちがずらりと並んだ。
「1年ほどかけ、国民的な議論をすべきだ」。経産省側が説明した原発活用の方針案に「待った」をかけたのは、消費生活アドバイザーの村上千里委員だけだった。村上委員は今月8日、同省の別の有識者会議で、原発の活用を具体的に検討した原子力小委員会でも「拙速だ」と、同省の議論の進め方を批判していた。
委員は1人5分の持ち時間で意見を表明。他の委員らは経産省の方針を「画期的だ」などと持ち上げて支持した。東京海上日動火災保険相談役の隅修三委員は「10年以上も原発の建設がストップしている。人材や産業の面でいま決断する必要がある」と述べた。
原発は必要としながらも、今回の方針に異論を唱えたのは国際大学副学長の橘川武郎委員。「運転延長は、1兆円規模かかる次世代革新炉(次世代型原発)の建設を遠のかせる」と矛盾点を指摘。政策指針であるエネルギー基本計画で再生可能エネルギーの主力電源化を掲げているにもかかわらず「再生エネの話が少なかった」と疑問も呈した。
会合は予定時間より30分早い、2時間で終了。それまで厳しい表情を浮かべていた資源エネルギー庁幹部らは委員らと談笑するなど、リラックスした様子で会議室を後にした。【東京新聞】