参院選公示を前にした六月十九日、千葉県柏市の柏駅前で市民団体「エナガの会」の若井正幸代表(65)ら十六人が東海第二原発(茨城県東海村)の再稼働反対を訴えた。「フクシマを忘れない」「原発に頼らないエネルギー政策を」ー。参加者らが次々とマイクを握り、通行人に思いをぶつけた。
首都圏にある唯一の原発をめぐっては、昨年三月に水戸地裁が「避難計画が不十分」として運転を認めない判決を出し、日本原子力発電(原電)が控訴した。地裁判決以降、脱原発の市民団体がネットワークをつくり、コロナ禍を意識した広域分散型の運動を展開している。六月は四度目の「一斉行動」で、千葉県内でも十カ所以上で行われた。
エナガの会によると、脱原発の街頭活動では以前から、原発推進派から議論を吹っかけられることがあったという。ただ、コロナ禍で市民の意識の変化を感じている。メンバーの田宮高信さん(52)は「街行く人は想像以上に原発への不安を感じているのではないか。今回もちらしを受け取りに近寄ってくる人が結構いた」と振り返る。
東海第二原発の避難計画策定が求められる三十キロ圏内には、十四市町村の九十四万人が生活している。東葛六市(我孫子、柏、鎌ケ谷、流山、野田、松戸)では水戸市の全人口二十七万人のうち四万四千人を受け入れる広域避難協定を結んでいるが、具体的な協議は何一つ進んでいない。そもそも十四市町村のうち九市町は避難計画自体が策定できていないのだ。
各自治体が計画策定で頭を悩ませている一つが避難所の感染症対策。換気が重要で、人と人との間隔を空けなければならない。一方で、原発事故では被ばくを避けるために換気はできないという。この矛盾とどう向き合うのか。
また社会的弱者とされる人の避難も課題だ。視覚障害者である柏市議の内田博紀さん(51)は、福島第一原発の事故で避難の際に要介護の高齢者らが犠牲になったことを踏まえ、「病人や障がい者個々の事情に対応するためには、避難方法や避難所の仕様など綿密な計画と準備が必要」と強調。そもそも実効性のある計画の策定は困難であるとの認識だ。
脱原発の動きには今、逆風が吹いている。エネルギー価格の高騰や、温暖化対策の名の下に再稼働の必要性が経済界を中心に論じられるようになった。関東を中心に猛暑日が続き、六月下旬に政府は「電力需給逼迫(ひっぱく)注意報」を発令した。再稼働の是非は、参院選の争点になったとの声も聞く。
「原発は必要だ、必要悪だ」。そんな声に若井代表は危機感をにじませる。
「東日本大震災であらわになった原子力災害の甚大さと、事故がなくても発生する放射性廃棄物の処理の問題は、現在も将来も全くめどが立っていない事実をどう考えているのか。東葛地域に一時保管されている放射性焼却灰の処分問題さえ、この十一年間放置されたままなのに」【東京新聞】