東京電力福島第一原発事故の福島県内外の住民らが国と東電に損害賠償を求めた4訴訟の最高裁判決。国の責任は否定されたが、1人の裁判官は他3人の多数意見の判決を痛烈に批判し、国が東電に規制権限を行使しなかったのは「国家賠償法1条1項の適用上違法だ」とする反対意見を書いた。原告らはこの反対意見を「第2判決」と呼び、後続の第2陣や全国各地の同様の訴訟で、最高裁で勝つまで闘い続ける覚悟を固めている。
◆「この反対意見は『第2判決』」
国に責任があるとする反対意見を書いたのは、検察官出身の三浦守裁判官。1陣、2陣含め原告が5000人超の福島訴訟への判決文では、補足意見を含め全54ページ中、30ページに及ぶ。
福島訴訟原告団の馬奈木厳太郎弁護士は「反対意見が判決の形で書かれているのは極めて異例のこと。これが本来あるべき最高裁判決だという思いを感じる。原告の思いに向き合い、法令の趣旨からひもとき、証拠を詳細に検討しているこの反対意見は後陣の訴訟にとって宝。第2判決として位置付けたい」と評する。
判決文の実質的な判断が書かれた部分が4ページなのに比べると、反対意見の内容は多岐にわたり、判断も詳細な理由が述べられている。「多数意見は国や東電の責任を問う裁判で、最大争点である津波の予見可能性や長期評価の信頼性への明確な評価を避けるなど、触れていない重要なことが多い」
一方で、三浦裁判官は長期評価も予見可能性も認めた上で「想定された津波で敷地が浸水すれば、本件事故と同様の事故が発生する恐れがあることは明らかだった」とし、遅くとも長期評価公表から1年後の2003年7月頃までには、国が東電に何らかの対策を取らせるべきだったとした。
また判決の多数意見は、予想された津波以上の津波が敷地を襲っており、対策も防潮堤以外は一般的でなかったとし、「仮に津波対策が取られていたとしても、事故が発生した可能性が相当ある」と判断。国が東電に対策を義務づけなくても、原発事故の発生に因果関係はないと結論づけた。
◆多重的な防護対策「検討すべきだった」
これに対し、三浦裁判官は津波が予想された方角以外からも遡上そじょうする可能性の想定をするのは「むしろ当然」とし、津波の大きさも相応の幅を持って考えるべきだと言及。津波の侵入口や経路をふさぐ水密化も国内外で当時実績があり、それら多重的な防護対策を「万が一にも深刻な災害が起こらないようにする法令の趣旨に照らし、検討すべきだった」とした。
さらに三浦裁判官は、原発の技術基準は電力会社の事業活動を制約し、経済活動に影響する一方で、原発事故が起きれば多くの人の生命や、身体や生活基盤に重大な被害を及ぼすと言及。「生存を基礎とする人格権は憲法が保障する最も重要な価値」とした上で、「経済的利益などの事情を理由とし、必要な措置を講じないことは正当化されるものではない」と断じた。馬奈木弁護士はこう解説する。「つまり原発稼働による経済活動を優先し、人の生命や身体を脅かすことは許されないということ。これはまさに原告側が訴えてきたこと。もっとも注目されるべき点ではないか」
国の規制権限は「原発事故が万が一にも起こらないようにするために行使されるもの」という三浦裁判官の反対意見は、1992年の四国電力伊方原発を巡る最高裁判決が説いた内容を受けたもの。馬奈木弁護士は言う。「重要な争点にも触れないなど判断を避けた部分が多く、今回の最高裁判決は、後続裁判が縛られるものではない。この第2判決の意見が多数派になり、再び最高裁まで勝ち上がって勝訴するまで闘う」
【東京新聞】