ウクライナ危機によるエネルギー情勢の変化を受け、経済界を中心に原発の再稼働を求める声が高まっている。政府や自民党は、再稼働が進まない原因が原子力規制委員会の審査長期化にあるとし、スピードアップを迫る圧力をかけ始めた。原因は本当に規制委にあるのか。
◆地元同意でも再稼働の時期は見通せず
「事故のリスクがゼロになることはなく、不断の対策が必要だ」。島根県の丸山達也知事は2日、中国電力島根原発2号機(松江市)の事故対策に懸念を示しつつ、再稼働を容認した。
昨年9月、事故対策が新規制基準に適合した島根2号機は、知事の同意ですぐに再稼働できるわけではない。規制委による別の審査が残っており、中国電はその入り口でつまずいた。
新基準に沿った設備の設計や工事計画の審査で、耐震評価が不十分と判明。今年3月までに資料の提出を終える当初計画は大幅に遅れ、説明は来年2月ごろまでかかる見通しだという。
来年2月は中国電が工事完了と計画する時期だが、この審査が終わらないと原子炉の対策工事ができない。他に、運転に欠かせない管理手順の審査も残る。清水希茂まれしげ社長は3日の報道陣の取材に、再稼働について「できるだけ早くという思いを持っている」と、具体的な時期の言及を避けた。
◆電力会社側の問題も多発
規制委にはこれまで16原発27基の審査申請があり、10原発17基が新基準に適合した。ただ、他の必要な審査も終えて地元同意後に再稼働したのは、6原発10基にとどまる。
新基準審査が5年を超えて最長9年となった原発は、いずれも地震や津波対策の前提となる地質や断層をどう評価するかの議論が難航している。審査では、電力会社の「適格性」を疑わざるを得ない事態に発展したケースもある。
敦賀2号機(福井県)の審査は、日本原子力発電による地質データの書き換えが発覚し、中断したまま。札幌地裁判決で運転禁止を命じられた泊原発の審査では、北海道電力が断層の説明を十分にできず、規制委が人材を早急に確保するよう何度も求めている。
電力会社の「都合」で審査が進まない原発もある。東北電力は新基準に適合した女川2号機(宮城県)の対策工事に手いっぱいで、東通原発(青森県)を後回しに。中国電は島根2号機を優先し、新設の3号機の審査を進める余力がない。
◆批判の矛先は規制委へ…それでも審査は早まらず
再稼働が進まない中、批判は規制委に向き始めた。自民党の原子力規制に関する特別委員会は5月、「審査の多くが標準処理期間の2年をはるかに超えて遅延している」と、政府に効率化を求める提言をした。
「安全性を大前提に原子力を最大限活用していくことは大事だ」と再稼働推進を繰り返し表明する岸田文雄首相も、独立性の高い規制委の審査について「体制強化が必要」と言及した。
安全性にお墨付きを与える規制委は効率化には前向きなものの、「安全の追求に妥協は許されない」と更田豊志ふけたとよし委員長。審査終盤で議論すべき論点が出て長期化したとしても「後出しじゃんけんと言われる筋合いはない」という立場だ。
「審査のスピードアップに何より効くのは、電力会社の頑張り」。更田氏は1日の記者会見で皮肉り、現状で審査が早まる原発があるか問われると、「思い当たらない」と言い切った。【東京新聞】