泊原発を運転してはならない―。札幌地裁は31日、住民らによる訴訟の判決で、北海道電力の適格性に「NO」を突き付けた。10年以上に及んだ裁判でも、再稼働に必要な原子力規制委員会の審査でも、北海道電は安全性を説明できずにいる。全国的に再稼働が進まない中、政府や自民党は規制委の審査長期化を問題視するが、電力会社の能力不足を直視しない限り、巨大なリスクを抱える原発には頼れない。
◆提訴から10年以上 札幌地裁、先延ばし許さず
「相当な資料によって裏付けていない」「根拠に基づいて主張立証をするべきで、それを尽くさない場合、原発は自然現象に対する安全性を欠くものだ」。判決文には、北海道電を厳しく非難する言葉が並んだ。
予兆はあった。北海道電は規制委の審査が長引き、地震や津波への対策が固まらないことを理由に裁判で詳細な主張をできずにいた。だが提訴から10年が過ぎ、谷口哲也裁判長は今年1月に審理を打ち切る異例の対応に出た。裁判と審査は別であることを明確にし、先延ばしを許さなかった。
判決後の記者会見で、原告弁護団長の市川守弘弁護士は「北海道電に当事者能力がなく、原発を稼働させる能力がないことは明らかだ」と言い切った。
◆常に後手、敗因は自らの能力不足
北海道電の敗因は、規制委の審査で露呈させた自らの能力不足だった。審査が終盤を迎えつつあった2017年、地震を引き起こす活断層を否定する根拠にした火山灰層が、原子炉の建設などでなくなっていたことが判明。議論は振り出しに戻った。その後、地質関係の人材不足が響き、規制委の指摘に十分説明できない状態が延々と続いた。
業を煮やした規制委の更田豊志ふけたとよし委員長は今年4月、藤井裕社長に「人的リソース(人材)への投資をおしまないことを明確にしてほしい」と詰め寄った。それでも、藤井社長は「人材確保を意識していく」と答えるだけだった。
泊原発は、東京電力福島第一原発事故を踏まえた新規制基準ができた直後の13年7月、関西、九州、四国の各電力の5原発とともに審査が始まった「先頭集団」だった。泊だけが今も審査が続いている。
◆新基準適合の「お墨付き」狙ったが…
北海道電は訴訟を先延ばしする間に、新基準適合という「お墨付き」を得ようとした。福島事故後に各地で起きている原発の運転差し止め訴訟では、新基準に適合した原発は安全性が確認されているという司法判断が続いてきたためだ。
審査が終わっていない場合でも、電源開発大間原発(青森県、建設中)の訴訟では函館地裁が18年3月に「規制委に代わって安全性審査をすべきではない」とし、住民側の訴えを退けた例がある。だが今回の判決は、北海道電の津波対策の不十分さにまで踏み込んだ。説明だけではなく、対策もできていなかった。
ウクライナ危機を背景に、岸田文雄首相は「安全性の確認された原発の再稼働を進める」と明言。自民党からは審査の効率化を求める声が上がるが、今回の訴訟が示したのは電力会社側の問題だった。原告の1人は憤る。「能力がない電力会社に危険な原発の運転を任せることはできない」【東京新聞】