ウクライナに侵攻したロシア軍がチェルノブイリ原子力発電所などを占拠していることを巡り、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は23日の会見で、原発で事故が起きれば「悲惨な結果をもたらしかねない」と警戒感を示した。また、テドロス氏は、国際原子力機関(IAEA)と協力し、事故のリスクを最小限に抑えるよう求めていることも明らかにした。
テドロス氏は、ロシアの侵攻が始まって以来、この1カ月で確認できただけで医療機関に64回の攻撃があったとして、「医療施設や医療従事者は標的ではないし、絶対にそうあってはならない」と批判。国内外に避難した人たちが劣悪な環境での生活を強いられ、はしかや肺炎、ポリオ、新型コロナウイルスに感染する恐れも高まっていると懸念した。
WHOはこれまでに、医療機材を西部リビウの倉庫から各地に届ける補給網を整備したが、国内の大部分の地域で通行を阻まれているという。テドロス氏は「危険で(ロシア軍に包囲されている南東部の)マリウポリへ送ることができない」と述べた。
ロシア軍がウクライナに侵攻してから約1カ月。この間に、1千万人以上が家を追われて国内外に避難した。ポーランドに近い西部の街リビウには、激しい攻撃を受けた戦火の故郷を、命からがら逃れてきた人も少なくない。
ロシア軍による包囲が続き、深刻な人道危機が懸念されている南東部の港湾都市マリウポリ。ウクライナ人の男性セルゲイさん(48)は、妻(44)と娘(17)の3人で16日に脱出し、リビウに来た。母親や義弟の行方がわかっておらず、ロシア軍による拘束を懸念して、職業やフルネームは明かさなかった。【朝日新聞】