ウクライナ政府は24日、ロシア軍がチョルノービリ(チェルノブイリ)の原子力発電所を占拠したと発表した。ミハイロ・ポドリヤク大統領顧問は、ロシアによる「全く無意味な攻撃」は「今日のヨーロッパにおける最も深刻な脅威の一つ」だと述べた。
チェルノブイリ原発は1986年4月、ウクライナがソヴィエト連邦の一部だった当時、爆発事故を起こした。ウクライナの首都キーウから北に約130キロ、ベラルーシからは約10キロの位置にある。大量の放射性物質が大気中に放出され、現在のウクライナだけでなく、ロシアやベラルーシ、さらには欧州北部の広範囲に拡散した。半径32キロの範囲が立ち入り禁止区域となった。2016年には、炉心や建屋を丸ごと覆うシェルターが完成した。施設内には複数の放射性廃棄物処理施設がある。
ロシア軍は24日未明、立ち入り禁止区域に先に入った後、ウクライナ領内に入り、原発施設の警備隊と戦闘を繰り広げた後、施設を掌握したとされている。チョルノービリはロシア軍にとって、キーウ進軍の足掛かりになる可能性がある。
米ホワイトハウスのジェン・サキ大統領報道官は、原発施設の職員がロシア軍に人質にされているという情報があると明らかにした。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はツイッターで、「1986年の悲劇が繰り返されないよう、この国を防衛する人たちは命をかけている」、「これはヨーロッパ全体に対する宣戦布告だ」と書いた。
国際原子力機関(IAEA)は、チョルノービリ周辺での戦闘の情報を受け、ウクライナの原発周辺では「最大限に自制」するよう呼びかけ、事態を「深く憂慮」して注視しているとコメントした。
IAEAによると、ロシア軍が原発を占拠したものの、死傷者や施設の損傷は報告されていないと、ウクライナの原子力当局から情報を得たという。
マリアノ・グロッシーIAEA事務局長は、チョルノービリ周辺の立ち入り禁止区域にある原発施設の管理作業が「一切影響を受けたり阻害されたりしない」ことが「きわめて重要」だと強調した。
ウクライナ政府は2000年に、チョルノービリ原子力発電所で唯一稼働していた3号機を停止させた。
米シンクタンク「トルーマン国家安全保障プロジェクト」のサマンサ・ターナー研究員は、チョルノービリ周辺をロシア軍が掌握しても「戦いの行方を決定する」効果はないが、ロシア軍はドニプロ川へ至る回廊を手にすることになると話す。
ドニプロ川を北上すると、ロシアと緊密に連携するベラルーシに至り、南下するとキーウに至る。
「部隊移動のため複数の回廊を開き、主要地域を支配下におくロシア軍の作戦の、重要な一部だ」とターナー氏は述べた。
チョルノービリ周辺は立ち入り禁止で、原発そのものも稼働していないが、この地域で戦闘が激化すれば、放射性廃棄物が流出する危険があると、ターナー氏は指摘した。
一方で、放射性廃棄物の処理に詳しい、英シェフィールド大学のクレア・コークヒル教授は、原子力施設の扱いにロシア人は極めて習熟していると話す。教授は、チョルノービリでの処理作業にも過去6年間関わり、現地を3回訪れている。
コークヒル教授は、ロシアの侵攻によって、チョルノービリでの処理作業が中断してしまうことを懸念している。
「事故から30年たって、まだ処理が終わっていない。さらに50年かかってもおかしくない。あの施設で廃炉に向けてスタッフが処理作業を続けなければ、大問題になり得る」
1986年の原発事故が、5年後のソ連崩壊に至る出来事のひとつだったという見方もある。
英シンクタンク「ヘンリー・ジャクソン協会の研究員、タラス・クジオ博士は、それだけにチョルノービリ占拠はプーチン大統領にとって象徴的な勝利と位置づけるべきだと話す。
「プーチンは、30年前にソ連が崩壊した事実を未だに受け入れられない、そういう思考の持ち主だ。ソ連ではチェルノブイリ事故のあとに、何もかもがバラバラになり始めた」と、ウクライナ系のクジオ博士は話した。
クジオ博士は、プーチン大統領が西側を牽制(けんせい)するために核兵器について脅しているだけかもしれないが、「ソシオパス(反社会的人格障害者)」のように行動しているだけに、その動きに注視するべきだと釘をさした。
「(プーチン氏が)ウクライナでしていることは、前代未聞だ。ほかにも前代未聞なことをやらないなど、思い込むべきではない」
(英語記事 Russian forces seize Chernobyl nuclear power plant / Ukraine live page)
【BBC】