暖房で電力需要が増える冬を迎え、電力各社が需給 逼迫ひっぱく への警戒感を強めている。昨冬は寒波と燃料不足が重なり西日本を中心に電力需給が深刻な事態に陥った。今冬も厳しい寒さが予想されており、各社は液化天然ガス(LNG)在庫の積み増しや老朽化した火力発電所の再稼働など、安定供給のため準備を急ぐ。
◆懸念
東京電力管内では6日夕、電力使用率が96%まで上昇し、需給逼迫度を示す指標が2番目に悪い「厳しい」になった。急激な寒さで暖房の使用が増えたことに加え、悪天候による太陽光発電の不足や、設備トラブルによる千葉県内の火力発電所の一時停止が重なった。
経済産業省の試算によると、今冬に「10年に1度の厳しい寒さ」が到来した場合、需要に対する供給余力(予備率)は来年2月、東京電力管内で3・1%となる見通しだ。安定供給の目安とされる3%をわずかに上回る水準で、想定外の事態が起きれば大規模停電につながりかねない。関西や中部、九州など6電力の管内は3・9%と4%を切る。
電力大手でつくる電気事業連合会の池辺和弘会長(九州電力社長)は「この冬も需給逼迫が懸念される。引き続き緊張感を持って安定供給に支障を来さぬよう努めていく」と話す。
◆検査先送り
電力不足を回避するため、電力各社はそれぞれ対策を進める。
東京電力ホールディングスと中部電力が出資する発電会社のJERAは、老朽化で長期停止中だった姉崎火力発電所5号機(千葉県)を来年1月に再稼働させる。亀井宏映所長は「点検で配管の破断や蒸気の漏れを確認したが、しっかり修理できた。再稼働に問題はない」と強調した。
関西電力は、今冬から運転を止めて定期検査を行う予定だった高浜原子力発電所3号機、大飯原発3号機(いずれも福井県)の検査入りを来春以降に先送りし、供給力を確保した。
今年1月の電力需給の窮迫は、火力発電の燃料となるLNGの不足が一因となった。東北電力はLNGについて、1~3年の短期契約を増やすことで、安価で安定して調達できる態勢を確保した。
◆経営リスク
昨冬の電力不足は、新電力の経営悪化にもつながった。卸電力市場で電気の価格が高騰し、調達費用が大幅に増えたためだ。東京商工リサーチによると、計6社が経営破綻したという。
新電力各社は、価格高騰の影響を軽減しようと、電力先物市場での取引を増やしている。将来供給を受ける電力について取引時に決済するため、後に価格が上昇しても足元の価格で電力を調達できる。下落した場合は損をするが、リスクを減らす効果が大きい。
脱炭素の動きを受けて火力発電への投資は停滞しており、原子力発電所の再稼働は遅れている。電力需給の綱渡り状態は今後も続く可能性が高い。
SMBC日興証券の橋本宗治・シニアクレジットアナリストは「電力不足のリスクを回避するために必要な資金を電力会社や新電力、消費者でどう分担するべきかを議論する必要がある」と指摘している。
【読売新聞】