福島第一原発の事故をめぐり、強制的に起訴され、1審で無罪を言い渡された東京電力の旧経営陣3人の2審の裁判が始まり、旧経営陣側は改めて無罪を主張しました。
東京電力の勝俣恒久元会長(81)、武黒一郎元副社長(75)、武藤栄元副社長(71)の3人は、福島県の入院患者など44人を原発事故からの避難の過程で死亡させたなどとして、検察審査会の議決によって業務上過失致死傷の罪で強制的に起訴されました。
1審の東京地方裁判所はおととし9月「巨大な津波の発生を予測できる可能性があったとは認められない」などとして3人全員に無罪を言い渡し、検察官役の指定弁護士が控訴していました。
2審の裁判が、2日から東京高等裁判所で始まり、指定弁護士は「1審の判決は、津波に対する国の見解で対策の大前提となる『長期評価』の信頼性を無理やり否定していて誤りだ」と述べ、3人には防潮堤の建設や、建屋などへの浸水を防ぐ対策をとる義務があったと主張しました。
一方、旧経営陣側の弁護士は「巨大津波を防ぐための対策は大がかり、かつ長期間にわたり、原発事故の前に着手していても間に合わなかった」と述べて、改めて無罪を主張しました。
次回の審理は来年2月に行われ、指定弁護士が求めている裁判官による原発の現場検証を実施するかどうかが決まる予定です。
被害者 遺族の代理人「裁判所が原発の現場検証行うかが焦点」
被害者と遺族の代理人として審理に参加した海渡雄一弁護士が記者会見し、「2審の最も大きな焦点は、裁判所が原発の現場検証を行うかどうかだ。きょうは判断されなかったが、慎重に検討したいという裁判所の姿勢の表れだと期待している。実施されれば1審の無罪判決が見直される可能性も高まると思う」と話していました。
遺族「無罪はありえない」
福島県の佐藤久男さん(62)の父親は原発事故のあと入院先の大熊町の双葉病院から避難することができず、医療スタッフとともにその場に残り3日後亡くなりました。
東京電力の旧経営陣3人が改めて無罪を主張したことについて、佐藤さんは「原発が爆発したため、取り残された人たちを迎えに行きたくても行けなかった。亡くなった父親の目元には涙のあとがあり、苦しんで亡くなったのだと思う。東京電力には絶対に責任があり、無罪ということはありえない。3人には罪を認めてほしい」と話していました。【NHK】