東京電力福島第一原発事故によって愛媛県内に避難した住民による損害賠償請求訴訟の控訴審で29日、高松高裁は国と東電に対して、10世帯23人に約4600万円の支払いを命じた。原告らは「ありがたい判決」と歓迎する一方で、当時住んでいた場所によって賠償額に差がついたことには「残念」と語った。
午後2時過ぎに判決が言い渡されると、原告を支援する「福島原発事故避難者裁判を支える会・えひめ」のメンバーが高裁前で「勝訴」「高裁で国を三度断罪」と書いた旗を掲げた。
集まった支援者からは「おお」「やった」と歓声が上がり、拍手がわき起こった。感極まって抱き合う人もいた。
判決は、原告23人について、「放射線被曝(ひばく)に対する恐怖や不安を感じ、自主的避難を選択した」と認定。原発事故が住民の平穏に暮らす権利を侵害し、その責任は国と東電にあるとして、計約4600万円の賠償を命じた。
特に避難指示区域に住んでいた住民に対しては、「人格的利益への極めて深刻な侵害」があったと指摘し、「ふるさとの喪失」に対する慰謝料を認めた。計約2700万円の賠償を命じた松山地裁判決に比べ、賠償額は大幅に増えた。
判決後、高松市内であった記者会見で、原告側代理人の野垣康之弁護士は「国の責任を認めたことは非常に意義がある。賠償は総じて増額し、避難者の保護を図った判決といえる」と評価。一方で、避難指示区域以外の住民には「ふるさとの喪失」に対する慰謝料は認めなかった。野垣弁護士は「賠償がなお不十分」として、上告する方針を明らかにした。
緊急時避難準備区域だった福島県川内村から避難した新妻秀一さん(67)=西条市=は「避難者はみんなふるさとを失ったものと思う。どうしてそういう考えになるのかわからない」と憤った。
避難指示区域だった福島県南相馬市小高区に住んでいた原告団代表の渡部寛志さん(42)=松前町=は「国の責任を認めたことは非常にうれしいが、賠償に差がでたことは唯一納得できない部分で、残念だ」と語った。「避難指示がなくても、みな不安だという気持ちで避難した。ふるさとに自分自身はもういない。それはふるさとを失うのと同じではないのか」と疑問を呈した。【朝日新聞】