経済産業省は3日、電源別の発電コストの試算について詳しい数値を公表した。原発は2030年時点で1キロワット時あたり「11・7円以上」となり、前回15年の試算より1・4円上がった。最も安かったのは事業用太陽光で、「8・2円~11・8円」だった。太陽光のコストが原発を将来下回る見通しが固まった。
7月12日に出した速報値では、原発が「11円台後半以上」、事業用太陽光が「8円台前半~11円台後半」などとしていた。同月21日に新たなエネルギー基本計画の素案を示し、30年度の電源構成案が固まったことを受け、数値を確定させた。
原発のコストが前回15年時点の試算より上がったのは、安全対策費や事故時の賠償費用などが増えたためだ。東京電力福島第一原発事故の処理費用などは今後もふくらみそうで、11・7円より上ぶれする可能性がある。
太陽光や陸上風力は、大量導入による設備の値下がりなどを反映した。今後の技術革新も見込めるとして、コストには幅を持たせた。
石炭やLNG(液化天然ガス)などの火力は、世界的な脱炭素の流れを受けて規制が強化されそうだ。「炭素税」など国の規制によって、コストも左右される。
■関連費用含めば太陽光割高に
試算でコストが下がるとされた太陽光だが、天候や時間帯で発電量は変動する。変動に対応するための費用や、送電線につなぐ費用などは試算に含まれていない。これらの一部を含めると、事業用太陽光は「18・9円」と原発より高くなるとの参考値も経産省は示した。
太陽光や風力など再生可能エネルギーの関連費用は、導入拡大によってふくらんでくる。経産省の担当者は「費用をどう抑制していくのか、誰がどう負担するのかを議論していくことが重要だ」と話す。
原発はコスト面の優位性は低下するが、政府や大手電力会社は「他の電源と遜色ない」(電気事業連合会の池辺和弘会長)などとして、利用し続けようとしている。4日にも示される新たなエネルギー基本計画案では、原発は「実用段階にある脱炭素電源」などと評価される見通しだ。経産省や大手電力は、いまあるものをできるだけ再稼働していく方針だ。
新たな計画案は経産省の審議会で了承され、パブリックコメントを経て、今秋までに閣議決定される。(新田哲史)
2030年の発電コスト試算
(1キロワット時あたり、カッコ内は15年時点の試算)
●原発 11.7円以上(10.3円以上)
●事業用太陽光 8.2~11.8円(12.7~15.6円)
●住宅用太陽光 8.7~14.9円(12.5~16.4円)
●陸上風力 9.9~17.2円(13.6~21.5円)
●洋上風力 26.1円(30.3~34.7円)
●LNG火力 10.7~14.3円(13.4円)
●石炭火力 13.6~22.4円(12.9円)