原発の核燃料などに自治体が独自に課税する核燃料税について、福井県は11月に税率を引き上げる方針を固めた。年間に約11億円の増収となる条例案を、15日開会の6月県議会に提出する。県内に原発を持つ関西電力などへの課税を強化する。
福井県は4月末、運転開始から40年を超える関電の老朽原発の再稼働に同意している。
県の核燃料税には、原発に核燃料を入れる際に課す「価額割」、原子炉の出力に応じて課す「出力割」、使用済み核燃料に課す「搬出促進割」の三つがある。
核燃料税 住民税など地方税法で定められた税目以外に、地方自治体が独自に条例を作って課税する法定外税の一つ。立地道県の中で福島県は廃止し、現在は12道県が導入。他に新潟県柏崎市など4市町が「使用済み核燃料税」を取り入れている。自治体は課税される電力会社などの意見を聴き、総務相の同意を経て課税する。不同意の例は過去にない。電気料金を払う住民らの意見を聴く場はない。
県はこのうち出力割を約12%上げ、搬出促進割の単価を1・5倍にする。止まっている原発が多く増税効果が見込めないとして、価額割は変えない。
県内には関電の11基を含め原発15基が立地する。このうち、廃炉が決まっていない8基が稼働した想定での県の試算では、現行の核燃料税収入が年143億円なのに対し、新条例では154億円になる。
2019年度の税収実績は約111億円だった。
県の担当者は、出力割の値上げについて、「立地に必要な安定的な収入を得るため」と説明。搬出促進割の値上げは「税率を上げることで、県内の原発内にたまっている使用済み核燃料の県外搬出を促すため」としている。
核燃料税条例は5年ごとに更新され、次は今年11月に迫っている。県は条例案が県議会で承認され、関電など納税者の同意と総務相の同意の手続きを経て、値上げを実施する予定だ。
県内にある関電の老朽原発3基について、杉本達治知事は4月末、再稼働への同意を表明した。東京電力福島第一原発事故後、老朽原発が初めて再稼働することになった。3基のうち美浜3号機(美浜町)は6月23日に再稼働する。
核燃料税は原発を持つ電力会社などが納税し、値上げは電気料金に影響する可能性がある。関電広報室は今回の値上げについて「条例は福井県が制定するもので、当社がお答えする立場にない」とし、電気料金への反映については「総合的に判断する」としている。
福井、核燃料税拡大のトップランナー
核燃料税は福井県が1976年に始めた。原子炉に入る核燃料の価格の5%をとった。92年までに他の原発立地の全12道県が続き、税率も上がっていった。
2011年の東京電力福島第一原発事故で各地の原発が止まると、福井県は原発停止中も税収を確保できる「出力割」という仕組みを11年につくった。出力割も、核燃料税自体を廃止した福島県を除く11道県が追随した。
福井県は16年には、原発にたまる使用済み核燃料と、廃炉中の原発にも課税する制度も加えた。福井県関係者は「先駆的に研究し、新たな制度を取り入れてきた」と言う。
福井県は今年4月、全国で初めて、運転開始から40年を超える老朽原発の再稼働に同意した。今回の福井県の核燃料税値上げは、その直後の時期になる。
運転開始から40年が迫る原発は全国各地にある。廃炉でも、40年超運転になっても、福井県の仕組みにまた追随すれば、核燃料税の税収を各道県は確保できることになる。
核燃料税は16年に電力の小売りが全面自由化されるまで、利用者が支払う電気料金に上乗せされてきた。自由化後も、原発を持つ大手電力会社の電気料金に影響する可能性がある。【朝日新聞】