茨城県が、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)に貢献するための新たな産業振興構想を打ち出した。菅義偉政権の看板政策「二〇五〇年カーボンニュートラル」に呼応したものだが、政府・与党内ではこれを原発の活用と結び付ける論調が支配的。大井川和彦知事は日本原子力発電東海第二原発(東海村)の再稼働には「別の議論がある」と予防線を張りつつ、原発は脱炭素に有用との見方も示しており、再稼働に反対する共産党や立憲民主党の県議は警戒の声を上げる。
■「期待分野」
新構想は「いばらきカーボンニュートラル産業拠点創出プロジェクト」。温室効果ガス排出の多い事業所が集中立地する神栖市から日立市にかけての臨海部で、「クリーン電力や新エネルギーのサプライチェーン(製造から流通、消費までの流れ)の構築と、エネルギー構造の抜本的転換に必要な技術開発・設備投資に取り組んでいく」(大井川知事)という。
県の説明資料には「期待したい分野」として、洋上風力や太陽光によるグリーン水素(製造過程で二酸化炭素を排出しない水素)の生産、水素やアンモニアを燃料に混ぜた火力発電、物流のカーボンニュートラル化などが挙がる。
■「含まれる」
直接的に原子力利用を織り込んだ項目はないものの、知事はプロジェクトを発表した五月二十六日の記者会見で「原発は当然、カーボンニュートラルに資する」との認識を表明。原発(軽水炉)以外の原子力利用に関しても、県内に実験施設がある高温ガス炉や核融合はカーボンニュートラル達成の手段に「含まれる」と明言した。
「二〇五〇年カーボンニュートラル」に伴い経済産業省が昨年十二月に発表した「グリーン成長戦略」では、既存の原発の再稼働に加え、小型モジュール炉(SMR)や高温ガス炉などの新型炉や核融合の開発が示されている。知事の発言は、こうした政府方針に沿ったものとみられる。
県内では、日本原子力研究開発機構の大洗研究所(大洗町)が、高温ガス炉の実験炉「高温工学試験研究炉(HTTR)」の七月中の運転再開を目指す。量子科学技術研究開発機構の那珂核融合研究所(那珂市)は、新たな大型実験装置「JT−60SA」で核融合に必要な超高温の「プラズマ」を発生させる試験を六月以降に始める予定だ。
■「別の議論」
会見では、最も注目される東海第二の再稼働については「また別の議論がある。そちらを含めて検討したい」と言葉を選んだ。
知事は、再稼働に同意するかどうかは「原発の安全性検証」「実効性ある避難計画策定」「それらに関する県民への情報提供」の三つを前提に、県民の声を聞いた上で判断すると繰り返している。「別の議論」とは、これらのプロセスを指すとみられる。
玉造順一県議(立民)は「プロジェクトが直ちに再稼働につながるものではないだろうが、カーボンニュートラルを巡る政府・与党の議論は注視していく必要がある」と指摘。江尻加那県議(共産)は「知事は梶山弘志経産相(衆院茨城4区)と近い。カーボンニュートラルのイメージが、再稼働を許容する雰囲気づくりに利用されかねない」と懸念する。【東京新聞】