茨城県東海村にある東海第二原子力発電所について、住民が安全対策に問題があるなどと訴えていた裁判で、水戸地方裁判所は避難計画やそれを実行する体制が整えられていないとして、事業者の日本原子力発電に再稼働を認めない判決を言い渡しました。
茨城県東海村にある日本原電の東海第二原発について茨城や東京などの住民224人は、巨大な地震で重大な事故を引き起こすおそれがあるなどとして再稼働しないよう求める訴えを起こしていました。
8年あまりにわたって開かれた裁判では、原発の周辺で想定される最大規模の地震の揺れ「基準地震動」の設定や、重大事故が起きたときに備えて自治体が策定する避難計画などが争点となっていました。
18日の判決で水戸地方裁判所の前田英子裁判長は、「基準地震動」の設定や施設の耐震性、それに津波の想定などについては、「原子力規制委員会が審査に適合するとした判断に見過ごせない誤りや欠落があるとまでは認められない」と指摘し、原告側の主張を退けました。
一方、避難計画については、「原発から30キロ圏内に住む住民が避難できる避難計画と体制が整っていなければ、重大事故に対して安全を確保できる防護レベルが達成されているとはいえない」と指摘しました。
さらに原発の30キロ圏内の住民が94万人にのぼることをあげ、「避難計画を策定しているのは14市町村のうち避難が必要な住民が比較的少ない5つの自治体にとどまっていて、人口の多い水戸市などは策定できていない」と指摘しました。
そのうえで「策定された計画でも、地震などの自然災害による住宅や道路の被害も想定した、複数の避難経路を設定しておらず、実現可能な避難計画や実行できる体制が整えられていると言うにはほど遠い状態だ」として、日本原電に再稼働を認めない判決を言い渡しました。
東海第二原発は10年前の東日本大震災以降運転を停止しています。
判決について弁護団長の河合弘之弁護士は会見で、「原告や支援者の力強い結束できょうのすばらしい判決が出た。避難計画が不十分だというわかりやすい理由で勝訴したのはよい意味で予想外で、歴史的な判決だと思う。人口密集地帯で事故を起こしたらどうするのかという主張が裁判所に届いたと思う」と述べました。
また、原告団の共同代表の相沢一正さんは「『運転してはならない』という裁判長の声を聞いたときに目頭が熱くなりました。主張が明確に届き、福島第一原発事故の教訓が生かされました。日本原電が対策工事を完了し再稼働を強行しないよう、たたかいを継続していきたい」と話していました。
判決について日本原子力発電の草野靖総務室長代理は「判決は当社の主張を理解いただけず、誠に遺憾であり到底承服できないことから判決文の詳細を確認したうえで速やかに控訴の手続きを行います」と述べ、19日にも控訴する考えを示しました。
判決を受けて茨城県の大井川知事は「司法の判断であり県は当事者でないことから、コメントは差し控えさせていただきます。東海第二原子力発電所の再稼働の是非については、安全性の検証と実効性ある避難計画の策定に取り組んだうえで県民に情報提供し、県民や避難計画を策定する市町村、県議会の意見を聞きながら判断していきます」というコメントを発表しました。
内閣府は、関係自治体と連携しながら原発で重大な事故が起きた際、避難などの対応策をとりまとめた計画を作っていて、これまでに再稼働した原発を中心に策定されてきました。
しかし、東海第二原発をめぐる計画は協議が続いていて、策定のメドはたっていません。
水戸地方裁判所の判決について、内閣府の原子力防災担当は「民事の訴訟でありコメントする立場にない」としたうえで、「関係自治体と避難計画の具体化に取り組んでいるところである。避難計画は地域住民の安全・安心にとって重要なものであり、引き続き、関係自治体と連携して防災体制の充実・強化に取り組んでいく」としています。
判決について原発がある東海村やその周辺に住む人からは「大きな一歩だ」という声があった一方、「原発は必要だ」という声も聞かれました。
東海村の隣のひたちなか市に住む40代の女性は「大きな一歩だと思う。やはり万が一の事故があったときのことを考えるとこわい」と話していました。
東海村に住む60代の女性は「家族が原発に関連する仕事をしていて、東海村も原発で発展してきているし、エネルギー問題も考えると100パーセント原発に反対とは言い切れない」と話していました。
東海村に住む40代の男性は「これからはよりクリーンなエネルギーに移行していくべきだと思うので原発は必要ないと思う」と話していました。
一方、別の男性は「かわりのエネルギーをどうするか、はっきりとしたアイディアがないので原発は必要だと思う」と話していました。
【NHK】