関西電力が金品受領問題の再発防止策に取り組み始めて、まもなく1年となる。コンプライアンス(法令や社会規範の順守)の意識改革を進めるが、社内調査では金品受領や役員報酬補塡(ほてん)の指示を受けた場合に断れないと答える社員が1割近くいることが判明。組織風土を変える難しさが浮き彫りになっている。
関電では昨年11月、全社員向けにアンケートをした。CSR(企業の社会的責任)をテーマに毎年実施しているが、今年度は金品受領や役員報酬補塡についての設問を追加。回答率は87・4%だった。
「金品受取問題は、一部の役職員だけの問題だったと思いますか」という設問に「いいえ」と答えた社員は61・0%にのぼった。役員報酬補塡についても同様の設問に「いいえ」と答えた社員が50・8%だった。
担当者は「当初は社内で『一部の雲の上の人たちがやった問題だ』という声は多かった。その意識が変わってきていて、問題を自分事として考える素地ができてきている」と話す。
一方、現時点で金品を渡されても「受け取らずにその場で返すことができますか」という設問に対して「いいえ」とした回答が9・1%あった。主な理由は「自身や家族に危害が及ぶ」「事業活動に支障がある」だった。
また現時点で報酬補塡の手続きを上司から指示されて「やめるように進言できますか」という設問に「いいえ」と答えた社員も9・1%だった。「(指示に反することが)自らの地位や出世に影響する」「指示に従うことが当然」といった理由が挙げられた。
アンケート結果については、従来は年代や役職別といった詳細なデータを部門の責任者にのみ伝えていたが、今回はリーダー(係長級)以上の5千人近くに周知した。より細かな単位の現場ごとに振り返ってもらい、社員一人ひとりが問題に向き合うことを期待しているという。また、今回は社員による振り返りが目的であるため、「会社として結果への評価はしない」(担当者)としている。
関電では昨年4月から役員と社員の意見交換会も始めている。関電と関西電力送配電の社員計約1万8千人のうち、これまでに計約850人が参加し、開催は100回を超えた。今後もなるべく多くの社員が参加できるよう取り組みを進めるという。(橋本拓樹)
関西電力による社員へのアンケート結果(一部抜粋)
回答者数16667人、回答率87.4%
Q:今回の金品受取問題は、当社グループにおける一部の役職員だけの問題だったと思いますか。
A:はい=39.0% いいえ=61.0%
Q:金品受取問題に関して、2020年3月以降、業務改善計画に基づく取組みを進めている「現時点」において、もし、あなたが、森山氏のような方から、明らかに金品と分かるものを渡された場合、受け取らずにその場で返すことができますか。
A:はい=90.9% いいえ=9.1%
【いいえの回答理由(複数選択可)】
・自身や家族に危害が及ぶと思うから=62.6%
・事業活動に支障があると思うから=50.6%
・前任者らの対応に費やした努力が水泡に帰すと思うから=31.4%
・事実上の業務命令に逆らうことにより、社内における自らの地位や出世に影響すると思うから=18.7%
・その他=18.6%
Q:今回の役員退任後の嘱託等の報酬補塡問題は、ごく限られた役職員だけの問題だったと思いますか。
A:はい=49.2% いいえ=50.8%
Q:役員退任後の嘱託等の報酬補塡問題を受けて、再発防止策を進めている「現時点」において、もし、あなたが上司から「報酬の補塡をする手続きをするように検討しろ」と指示されたら、やめるように進言できますか。
A:はい=90.9% いいえ=9.1%
【いいえの回答理由(複数選択可)】
・事実上の業務命令に逆らうことにより、社内における自らの地位や出世に影響すると思うから=51.0%
・上司の指示に従うことが当然だと思うから=30.2%
・上司の行動を見てその真意を測って行動するのが当然だと思うから=26.8%
・その他=24.8%
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〈金品受領問題と役員報酬補塡(ほてん)問題〉 関西電力では1987年以降、元役員ら77人が福井県高浜町元助役の森山栄治氏(故人)から計約3億6千万円相当の金品を受け取っていた。昨年3月に調査結果を公表した第三者委員会によると、一部の元役員から元助役側に対し、原発関連工事の発注や情報提供があった。
また関電では東日本大震災後、電気料金の値上げに伴いカットしていた役員報酬のうち、一部を後から補塡。対象は18人で補塡額は計約2億6千万円にのぼる。社外の弁護士による調査では、森詳介元会長が主導したとされ、自身も補塡を受けていた。【朝日新聞】