関西電力が、令和2年内に原発の使用済み核燃料の中間貯蔵施設の候補地を福井県に提示することを断念し、今年計画していた老朽原発の再稼働が見通せなくなっている。また、他の原発でもトラブルでの長期停止が継続。電力供給、業績の生命線である原発でのつまずきは、関電の先行きに影を落としている。
「相乗り」案提示できず
昨年12月25日、福井県庁。桜本宏副知事は、中間貯蔵施設の県外候補地の提示断念を説明した関電の松村孝夫副社長に「約束を守られなかったことは誠に遺憾」と不満をあらわにした。松村氏は「要請にお答えできない状況を重く受け止めている」と陳謝するしかなかった。
期限内に候補地を提示できなかった平成30年に続く2回目の約束の反故(ほご)。松村氏は「早めに(提示する)」としたものの、具体的な時期は明示しなかった。
さかのぼること約1週間。関電内では期待が高まっていた。森本孝社長は18日、記者会見で大手電力会社の業界団体、電気事業連合会(電事連)が打ち出した青森県むつ市の中間貯蔵施設への「相乗り」案の検討を福井県に提示する考えを表明した。
同施設は東京電力ホールディングス、日本原子力発電が設置。2社が使用する予定だが、電事連が12月、電力各社での共同利用案を打ち出した。福井県への回答期限が迫っていた関電への「救済」との見方もあった。
状況が一変したのは、青森側の厳しい反応だ。共同利用案について電事連や経済産業省から説明を受けたむつ市の宮下宗一郎市長は「むつ市は核のごみ捨て場ではない。全国の燃料を引き受ける必然性はない」と反発。青森県の三村申吾知事も「全くの新しい話で、聞き置くだけにする」と突き放した。
当初の想定通り福井県に共同利用案を提示すべきか。「言及するかどうか悩みがあった」。関電幹部はこう振り返る。ぎりぎりまで検討が続いたが、青森側への刺激を避け、2回連続の「ゼロ回答」に終わった。
青森側反発、溝埋まらず
中間貯蔵施設の県外立地案の提示は、関電にとって何としても成し遂げたい案件だった。稼働40年超の老朽原発3基の再稼働で、福井県の杉本達治知事が地元同意の「条件」としていたからだ。
3基は美浜原発3号機(福井県美浜町)、高浜原発1号機、2号機(同県高浜町)で、関電は昨年8月にそれぞれ1月、3月、5月に再稼働する工程表を発表。いずれも再稼働に必要な安全審査に合格しており、地元同意が得られれば再稼働できる。実現すれば国内初の老朽原発再稼働となり、電力業界の期待は高かった。
だが、杉本知事は昨年末「約束は守られていないので、信頼関係は悪い方に動いているのは間違いない」とし、「議論の入り口に立てない」と、候補地の提示が再稼働同意の前提との立場を鮮明にした。
関電側は「『早め』とした以上、2~3年では通用しない」(幹部)としているものの、みずから積極的に事態を打開する姿勢はみえない。前回平成30年の候補地提示の際、むつ市の施設が有力との一部報道に同市が猛反発し、関係がこじれた経緯があるためだ。関電は「国と電事連が役割を担っている」と、一歩引いたスタンスを貫く。
「立地地域の理解なくして核燃料サイクル政策が1ミリも進むことはない」と繰り返すむつ市の宮下市長と、溝が埋まる気配は見えないのが現状だ。
トラブル続く原発
関電の試算では美浜3号機などが稼働すれば、1基あたり月25億円程度、燃料費が減る。原発再稼働がコスト減に有効だが、中間貯蔵施設の候補地を示せない限り動かせない。
老朽原発以外でもトラブルが相次いでいる。
大飯原発3号機(福井県おおい町)は昨年7月からの定期検査で配管の傷が見つかり、9月の運転再開予定を延期中。高浜3、4号機も別の配管で傷があったことなどから運転再開の見通しは立っていない。
大飯3、4号機では昨年12月、大阪地裁が耐震設計をめぐり、原子力規制委員会の審査に不備があるとして設置許可を取り消した。国が控訴しており、関電は17日に4号機の運転を再開したが、原告の住民側が設置許可の効力を控訴審判決まで停止するよう大阪高裁に申し立てた。
直近では寒波で暖房需要が高まり、関電管内は1月前半に電力使用率が90%台後半で推移するなど電力が逼迫(ひっぱく)。原発の稼働が不透明な中、今年も厳しい運営が続く。【産経新聞】