2011年3月の東京電力福島第一原発事故後も電力会社は原発の稼働を進め、政府も温室効果ガスを排出しない「脱炭素電源」と位置付け、稼働を後押ししている。稼働には、原子力規制委員会の審査で、原発が重大事故に備えた設備の安全性強化を求める「新規制基準」に適合したと判断される必要がある。これまでに9原発16基が審査をパスし、年内に新たに1基が適合する見通し。他の原発は想定される地震と津波の評価が長期化し、終わりは見えない。
13年に新基準ができて以降、規制委には16原発27基の審査申請があり、7原発11基の審査が続く。新基準適合の原発のうち、西日本にある5原発9基が再稼働した。
21年中に新基準適合が見込まれるのは、中国電力島根2号機(松江市)。審査は火山灰への対策など一部を残すだけで、規制委の担当者は「最後の詰めに入っている」と話す。
一方、北海道電力泊3号機(北海道)は、敷地内の断層が地震を引き起こす活断層かどうかの確認に時間がかかっている。北海道電の対応は後手に回っており、規制委の更田豊志委員長が昨年12月、「地質の専門家を自社で育成しないと、審査がすみやかに終わると思えない」と藤井裕社長に迫る場面もあった。
日本唯一の原発専業会社である日本原子力発電(原電)の敦賀2号機(福井県)は、原子炉建屋直下に活断層の存在が指摘されている。審査で活断層と認められれば、廃炉を免れない。「活断層ではない」と主張する原電だが、審査資料の地質データ書き換えを規制委に指摘され、本社の立ち入り調査も受け、審査どころではなくなっている。
南海トラフなど巨大地震のリスクに直面する中部電力浜岡原発(静岡県)や、青森県にある東北電力東通原発と電源開発大間原発、北陸電力志賀原発2号機(石川県)は設備面の具体的な審査まで進んでいない。
使用済み核燃料を再利用する「核燃料サイクル政策」の要である日本原燃の使用済み核燃料再処理工場(青森県六ケ所村)は新基準に適合済みだが、稼働に必要な設備の詳細設計を定めた工事計画の審査が長期間となる見込み。原燃は完成時期を25回延期し、現時点の予定は22年度上期。1990年代後半にできるはずだった核燃料サイクルの輪は、四半世紀たっても絵に描いた餅のままだ。
原子力規制委員会 東京電力福島第一原発事故を受け、政府は2012年9月、原発の規制を担ってきた内閣府の原子力安全委員会と経済産業省の原子力安全・保安院を廃止し、環境省の外局に独立させた。有識者である5人の委員と、実動部隊である原子力規制庁からなる。【東京新聞】