【論説】関西電力大飯原発3、4号機の耐震性を巡り、福井県などの住民らが起こした訴訟の判決で大阪地裁は、新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断を「看過し難い過誤、欠落がある」とまで断じ、設置許可を取り消した。
これまでの原発を巡る司法判決では、個々の安全性を判断して運転差し止めなどを命じたケースはあったが、今回は新規制基準に基づく原発の安全審査の手法を否定した初の判決であり異なる重大な意味を持つ。同様の手法で基準地震動を算出してきた多くの原発の信頼性についても影響が及ぶことは避けられない。規制委は判決を重く受け止めなければならない。
2013年7月に施行された新規制基準は、11年の東京電力福島第1原発事故以前、炉心溶融などの重大事故への対策は電力会社の自主的な取り組みに任されていたことの反省を踏まえたものだ。同様の事故を二度と起こさないとの使命を負って策定、施行された。以降は自然災害やテロへの対策も必須とし、独立性を高めた規制委が審査を担っている。
今回の判決は、規制委が適合性を審査し、再稼働に「お墨付き」を与える手続きに疑念を突き付けた格好だ。控訴すれば判決の効力は直ちに生じないとはいうものの、住民側の勝訴が確定した場合、より厳格な耐震基準で再評価し、改めて許可を得るまで稼働できない可能性がある。電力関係者が「判決が確定すれば、全ての原発が無関係ではなくなる」と危惧するのも当然だろう。
福島事故後の県内原発に関する訴訟や仮処分では、大飯原発3、4号機を巡る14年の福井地裁が初めて運転差し止めを命じ、関電高浜原発3、4号機についても15年に福井地裁、16年に大津地裁が差し止めの仮処分を決定している。ただ、いずれもその後の上級審などで覆され、確定した例はない。
今回、規制委と司法の判断が逆転したことで、再び翻弄(ほんろう)される事態となった。規制委の判断に不備があるのならば、安全最優先の観点から、国は判決の趣旨に沿ってそれぞれの原発で本当に安全と言えるのかを再検討し、経過や結論について住民に丁寧に説明していく責務があろう。
そもそも国が原発をどう活用しようとしているのかが見えてこない。菅義偉首相は50年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする政策目標を掲げ、太陽光など再生可能エネルギーの導入拡大を軸とする一方、原発については「原子力を含むあらゆる選択肢」と言及するのみにとどまっている。そうした曖昧な姿勢に終始することなく、将来像を明確に示すべきだ。【福井新聞】