東京電力福島第1原発事故の避難者が東電と国に損害賠償を求めて新潟地裁で争ってきた訴訟が、提訴から7年を経て28日に結審する。全国の集団訴訟の中で、新潟訴訟は原告の8割を占める「自主避難者」への賠償の妥当性などが争点となっている。東電側は訴訟の終盤で、原告が求める精神的損害への賠償は支払い済みの賠償額に含まれ「解決済み」との主張に転じた。原告側は強く反発。主張は鋭く対立したまま、訴訟は最終盤を迎える。
訴訟は、原発事故で避難を強いられた住民が、精神的苦痛を受けたなどとして2013年7月に提訴した。原告804人は、福島県外の集団訴訟では最大規模。多くの原告はいわき市や郡山市など、避難指示は出ていない地域から避難した人たちだ。
避難指示区域外からの避難について、原告側は事故後に自宅周辺の放射線量が上がったとした上で「低線量でも被ばくによるリスクがないとは科学的に証明されていない。リスクを避ける避難は自然で合理的」と主張する。一方、東電は避難の目安とされる年間20ミリシーベルトの被ばくリスクは「喫煙や肥満、野菜不足などと比べても低い」などと反論してきた。
その上で、避難生活の苦労やふるさとから離れざるを得なかった精神的苦痛について、東電の賠償基準として国が定めた「中間指針」を超える賠償が認められるかが焦点となっている。
裁判が長期化する中、東電は今年に入り、精神的苦痛への賠償の捉え方を変え、「既に十分、支払い済みだ」との主張を始めた。
東電は区域外避難者に対しては従来、1人当たりの賠償額のうち8万円(妊婦などは48万円)が支払い済み分だとしてきた。
新たな主張では、福島と新潟を行き来するガソリン代や避難に伴い増加した生活費などを補てんすれば精神的損害は償われるなどとし、他の名目で既に支払った額も精神的損害の賠償額に含まれるとの考えを示した。さらに区域内も含め、原告とその家族に支払った分を合算すれば、賠償額に「払い過ぎ」の部分さえあるとする。
一方、原告は原発事故により地域の絆ややりがいのある仕事を失った苦しみを訴え、国の賠償指針を超える損害があると訴えてきた。原告弁護団は「財産の賠償として支払った額を精神的損害に流用できるかのような主張で、極めて不当だ」と反発している。
弁護団によると、東電は新潟と同時期に全国の訴訟でも訴え始めたという。
立命館大法科大学院の吉村良一教授(環境法)は「中間指針は賠償を早期に行うため控え目な額を示したもので、払い過ぎがあるとは考えられない」と指摘。「事故から9年以上たち、東電の『これ以上、払いたくない』との意図が透けて見える主張だ」と批判している。
<原発事故の賠償> 避難指示区域の避難者には、原発事故で居住できなくなった土地や建物などへの賠償や精神的損害を含めた慰謝料などを賠償した。区域外からの避難者には、精神的損害や生活費増加分として1人12万円、最大で妊婦や子どもに72万円を支払った。このほか、避難者が個別に裁判外紛争解決手続き(ADR)で避難に伴うガソリン代などを請求し、東電が認めたものについては支払われる。【新潟日報】