東京電力福島第一原子力発電所で増え続けているトリチウムなどを含む水の処分方法について、国が関係する団体などから意見を聞く7回目の会合が8日、開かれ、漁協の全国団体「全国漁業協同組合連合会」などが、海洋への放出に反対する意見を述べました。
福島第一原発のタンクにたまり続けているトリチウムなどの放射性物質を含む水の処分をめぐっては、ことし2月、国の小委員会が、基準以下に薄めて海か大気中に放出する方法が現実的だとする報告書をまとめ、政府は地元や関係団体などから意見を聞いたうえで方針を決定するとしています。
8日は7回目となる意見を聞く会が都内で開かれ、全国と福島県の水産業の関連団体が意見を述べました。
このうち、漁協の全国団体の全漁連=全国漁業協同組合連合会の岸宏会長は「海洋放出になれば風評被害の発生は必至であり、今までの漁業者の努力が水泡に帰するだけでなく、わが国漁業の将来にとって壊滅的な影響を与えかねない。海洋放出は絶対反対である」と述べ、幅広い英知を結集して議論を深め、慎重に判断することを求めました。
また、福島県水産加工業連合会の小野利仁代表は「私たちは風評の最前線で9年間取り組んできて、海洋放出には断固反対する。一方で、トリチウムを含む水はどうにかしなければいけないこともわかっていて、廃炉も早く進めてほしいというジレンマの中にいる。一日も早く当たり前の経済活動ができる環境をお願いしたい」と述べました。
政府は、トリチウムを含んだ水の処分については、できるだけ早期に方針を決定したいとの考えを示しています。
水産団体「海洋放出には断固反対」
8日は、福島県の水産加工業連合会の代表と漁協の全国団体、「全国漁業協同組合連合会」の会長が意見を述べました。
福島県水産加工業連合会の小野利仁代表は、「私たちは、産地から魚を買って、市場に出す者の集まりで、風評の最前線で9年間取り組んできた。小委員会の報告書などを見て、われわれなりに検討したが、やっぱり納得がいかない。海洋放出には断固反対する」と述べました。
また、「原発事故から10年近くの間に地震・津波、風評、賠償の打ち切りなどで、廃業していった者があり、なかには死に至った者もいる。本格操業に向かう今の時期に、風評が蒸し返されるという不安の日々を送っている」と述べました。
一方で、「トリチウムを含む水の問題は、どうにかしなければいけないということもわかっている。廃炉も早く進めてほしいというジレンマの中にいる」と述べたうえで、「当たり前の商売をさせてほしい。当たり前の経済活動をさせてほしい。そういう環境作りを一日も早くお願いしたい」と訴えていました。
全国漁業協同組合連合会の岸宏会長は、「トリチウムを含む水の取り扱いは、福島県のみならず全国の漁業者に影響がおよび、漁業者だけでなく消費者や水産物を輸入する諸外国の市場にも影響を与える極めて大きな問題だ」と指摘しました。
そのうえで、「福島第一原発事故から10年近く、漁業者は、震災の直接的被害だけでなく、放射能汚染に苦しんできた。本格操業の再開に向け、一歩一歩、地道な努力が続く一方で、近隣諸国では輸入規制を解除しておらず、売り先を失った状況が続いている」と述べました。
トリチウムを含む水の取り扱いについては、国全体の喫緊の重要課題であると認識しているとしたうえで、「海洋放出ということになれば、風評被害の発生は必至であり、極めて甚大なものとなることが憂慮される。今までの漁業者の努力が水ほうに帰するだけでなく、わが国漁業の将来にとって壊滅的な影響を与えかねない。漁業者、国民の理解を得られない海洋放出については、漁業者の総意として、絶対反対である。国においては、幅広い英知を結集して議論を深め、慎重に判断してほしい」と述べました。
加藤官房長官「早期に方針決定」
加藤官房長官は午後の記者会見で「東京電力福島第一原子力発電所の廃炉の着実な実施は、原子力災害から復興するという意味で大前提となっている。関係団体の意見を真摯(しんし)に受け止めつつ、廃炉作業を遅延させないためにも、日々、増加する処理水の取り扱いについて、早期に方針を決定していかなければならない」と述べました。
【NHK】