関西電力の金品受領問題は26日で発覚から1年を迎える。原因とされた「内向きの企業体質」からの脱却に向け経営陣を刷新し会社形態も変更したが、改革は始まったばかり。原子力発電所の再稼働など事業の課題も山積する。関電はどう変わり、どこへ向かうのか――。現在地を検証する。
大阪・中之島にある関電本店。社長や会長が執務する役員フロアの1つ下の階に今夏、新たな組織が立ち上がった。「早めに資料をお願いします」「事業のリスクをまとめてください」……。わずか6人からなる部署から、社内の各部門に依頼が飛ぶ。
外部の監督の目が厳しい指名委員会等設置会社へと6月に変わり、13人の取締役のうち半数を超える8人が関電以外の出身者となった。社外取締役が中心となる組織がしっかりと機能するよう、重要な執行状況を社外取に伝える役割を担うのが新設の「取締役会室」だ。社外取のみが参加する会議の準備なども急ぐ。
2019年9月に発覚した金品受領問題。原発のある福井県高浜町の元助役(死去)などから、役員ら70人超が計約3億6千万円相当の現金やスーツ仕立券を受け取っていた。当時の経営陣が社外取への報告や対外公表を見送るなど、ガバナンス(企業統治)の機能不全が次々と浮上した。
さらに、東日本大震災後に減らしていた役員報酬を、退任後ひそかに補填していた問題まで判明。第三者委員会は3月に公表した報告書で、「関電はユーザー目線が欠落し、透明性を軽視している」と批判した。
関電が「脱・内向き」で重視するのが、外部の視点だ。週に1回、幹部が集まり経営課題などを話し合う会議にも社外取がオブザーバーとして出席するようになった。
問題を把握した当時も社外取はいたが、関電側が情報を共有せず監督機能は発揮されなかった。森本孝社長は「絶えず問題意識を共有して有効な議論ができるよう、取締役会室が社外取を日常的にサポートする」と強調する。
他の新組織も急ピッチで動き出した。4月に設置したコンプライアンス委員会。委員長を務める中村直人弁護士は「四半期ごとの開催を想定していたが、毎月のように集まり濃密な議論をしている」と手応えを語る。
子会社で新たに判明した金品受領への対応にかかわり、8月には役員報酬補填問題の報告書をまとめ、幹部に対し企業統治に関する研修を年に100時間ほど受けるよう提案した。関電の新たな行動憲章も20年内をメドに策定したい考えだ。
もっとも、関電が進める変革に対して周囲は半信半疑のままだ。筆頭株主である大阪市の幹部は「公共サービスを提供する関電には、民間企業の中でも高い経営の透明性とユーザー目線が必要だ。組織改革は道半ばで、きちんと機能するかを引き続き監視する」と厳しい見方を続ける。
「『関電は変わった』と言ってもらえるようにしたい」。関電が会長に招いた榊原定征・前経団連会長は、その目指す時期として2年後を掲げる。これを一旦のゴールに置くとすれば、現在地は1合目を越えたあたりにすぎない。前代未聞の不祥事で失墜した信頼は、着実な歩みで取り戻すほかない。道のりは始まったばかりだ。【日本経済新聞】