関西電力の森本孝社長は日本経済新聞のインタビューに応じた。役員らによる金品受領問題で浮き彫りとなったガバナンス(企業統治)の弱さに関し、社外取締役が中心となった取締役会で「議論してもらえる仕組みをつくることが重要だ」と述べ、「内向き体質」の脱却に力を入れると強調した。主な一問一答は以下の通り。
■ガバナンスの見直し
――外部から経営監視する仕組みは問題発覚前からありました。実効性をどう高めるのですか。
「金品受領問題では、(内部情報を)社外取に報告できておらず、(情報共有の)社内ルールもあまり定められていなかった。まずは取締役会や各委員会に重要事項を報告し、議論してもらえる仕組みをつくることが重要だ」
「『取締役会室』を新設し、社外役員の活動を全面的にサポートする部隊を置いた。(福井県美浜町の)原子力事業本部に役員を送り、監査特別委員も現地に配置した。内部の困りごとが経営陣に伝わる仕組みも整える。その上で社外の方の意見を聞き、『内向き体質』から脱却できるように一生懸命やりたい」
――歴代の社長らだけでなく監査役の責任を問う声もあります。監査役への訴訟は「期待利益が裁判費用を上回らない」として見送りました。
「(裁判対応に)相当数のスタッフを張り付かせると、事業運営にもマイナスになる。裁判費用の問題もあるが、そうした状況を長引かせることの方がデメリットが大きいと判断した」
――株主代表訴訟で自身も訴えられています。
「提訴自体は重く受け止めているが、内容を十分に把握できていないため、現段階でこれ以上は申し上げられない」
■原発再稼働と中間貯蔵施設
――高浜・美浜原発の再稼働の道筋は。
「3、6月に福井県と立地自治体を訪ねた。金品受領問題で、地元の方も社会から厳しい視線で見られるつらさがあると聞いた。関電が透明性の高い原発とすることが貢献できる要素だと思う。地元での個別訪問も毎週のようにやっており、安全対策はもちろん感染症対策を含めて丁寧に説明していく」
――使用済み核燃料の中間貯蔵施設の候補地選定は「2020年を念頭に」としています。目標は変わりないですか。
「変えていない。最優先課題の一つとして、全社を挙げて取り組む」
――効率の悪い石炭火力を削減する議論が始まりました。関電の石炭火力は高効率ですが、どう考えますか。
「現状のエネルギー基本計画でも効率の悪い石炭火力を廃止すると位置づけている。今は基本計画を実現するための具体的なプログラム作りの議論をしていると思う。ただ石炭火力は必要なベース電源という意味もあり、全て悪いわけではないと思っている」
■コロナで変わる生活
――新型コロナウイルスの感染拡大で人々の生活が一変しました。経営面での対応は。
「足元では原油価格の変化も激しく、脱石炭に対する潮流も加速している。今後は生活様式や仕事のやり方も変わる。将来に大きな変化をもたらすものは何かを捉え、少しでも早く手を打つ。情報通信インフラを含めたプラットフォームづくりは我々の得意分野なので開拓していきたい。生活ビジネスや地域開発の分野にも力を入れていく」
――新型コロナ下でスタートアップへの投資はIT(情報技術)や医療分野にシフトしますか。
「ありえると思う。(コーポレートベンチャーキャピタルの)K4ベンチャーズの第1号案件は(問診アプリを手掛ける)医療系のベンチャーのユビー(東京・中央)だった。今後は医療機関も効率的で短時間の診断・治療が求められる。多くの人に何が求められているか調査していきたい」
■問われる実効性、情報開示を
関西電力は外部監視が厳しい指名委員会等設置会社に移行し、取締役のうち半数を超える8人を社外から迎えた。「制度上はこれ以上ないほど整った」(企業統治の専門家)なか、今後はその実効性が問われる。
関電は2015年に社外取締役を生かした「人事・報酬等諮問委員会」を設置。内部通報制度などガバナンスの仕組みはつくっていた。だが、役員報酬の補填を決めた際は社長らでひそかに決めていた。
都合の悪い情報が外部の視点に伝わらなければ意味がない。取締役会室の運用状況や工事発注の適切性を審議する「調達等審査委員会」などの実施状況を開示し、関電は顧客や原発の地元自治体を納得させる必要があるだろう。
【日本経済新聞】