原子力規制委員会が、原発の運転や管理が適切に行われているかを監視する検査制度を4月から大きく変えた。電力会社が検査を担い、規制委がそれをチェックする仕組みを明確にした。検査体系も整理し、検査官が必要な情報に自由にアクセス、施設に立ち入れるようにした。新型コロナウイルスの感染防止に気を配りながら、取り組みが続く。
原発の検査には、原則13カ月に1回、運転を止めて規制委や電力会社がそれぞれ行う定期検査(定検)や、規制委による年4回の保安検査などがあった。
規制委の実動部隊である原子力規制庁によると、以前は規制委と電力会社の検査が混在し、責任の所在があいまいになる懸念があった。検査期間などを電力会社に事前通告もしていた。
新制度では電力会社が検査実施の責任を持ち、規制委はそれをチェックするという役割分担を明確にした。また、規制委のチェックを「原子力規制検査」として一本化。電力会社の取り組み全てを対象にし、期間も限定しない。電力会社による定検は以前と同様に実施する。
また、電力会社が用意していた記録などの確認が中心の検査方法も改め、規制委の検査官が事前通告なく、パソコンなどで情報に直接アクセスできるようにした。不備などがあれば、安全上の重要度に応じて色分けして公表する。
日本の検査制度については、国際原子力機関(IAEA)が「柔軟性がなく複雑」などとして改善を求め、国が準備を進めてきた。規制委と規制庁は2018年秋、全国の原発で新制度導入への試運用を開始。19年4月からは、関西電力大飯原発(福井県おおい町)と東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)などで、本番に近い形での検証を進めていた。
新制度の成否のカギを握るのが、実務を担う原子力運転検査官だ。
検査官は2月時点で約150人。廃炉作業中を含め、15基の原発がある県内には敦賀、美浜、大飯、高浜の各原子力規制事務所に、5月1日時点で計19人の検査官がいる。
新制度では、検査官は受け持ちの原発での日常的な検査を担当。専門性の高い分野は、東京の本庁の検査官と組んで実務を担う。規制委は検査の視点などをまとめたガイドを作成し、研修などで検査官のスキルアップを図ってきた。また、新型コロナの感染防止策として、県内の規制事務所の検査官らを2班態勢にし、接触機会を減らすなど「検査への影響を少なくするようにしている」という。
規制庁の西村正美・地域原子力規制総括調整官は新制度の効果について、電力会社と規制委の双方が不十分な点に気づき、それが改善へのきっかけとなることで安全性の更なる向上ができると期待する。「検査官が現場で『おかしい』と気づき、問題の本質を見抜いて納得がいくまで確認することが重要。実務や継続的な研修で力を更に高めていきたい」と話す。
大飯原子力規制事務所の森園康弘所長は「(検査官が)自由に情報収集できるので、電力会社も緊張感を持っているのではないか。より実効性のある検査を追求していきたい」と話す。【朝日新聞】