福島第1原発事故関連のドキュメンタリー映画の監督と主な出演者にインタビューする連載「あの映画 その後」。第3シリーズで取り上げる「日本と原発 4年後」の河合弘之監督(76)は弁護士でもある。今、東京電力の旧経営陣3人が強制起訴された刑事裁判で「福島原発刑事訴訟支援団」の一員として裁判の経過を伝え、公正な責任追及が行われるように見守っている。
新型コロナに原発事故が重なったら
今、広く国民に伝えたいことは何か。事前に伝えておいたいくつかの質問に対し、河合さんはまず、そのことから話し始めた。
「日本中が新型コロナウイルス対策一色だけど、今、原発事故がそこに重なったら日本は壊滅しかねない。そのことに想像力を働かせてほしい。仮に原発事故で避難指示が出たら、人々は広域に移動する。福島第1原発事故を振り返ってみても、避難所はまさに『3密』状態になる。新型コロナ対策上は避けるべき状況に追い込まれるわけです。国はどんな対策を講じることができますか。大混乱は避けられません」
はっとした。河合さんは、最悪の危機を考えておいた方がいいと警告する。
「原発というのはいったん事故が起きたら怖いということを思い出してください。新型コロナの感染終息までは長期間かかるでしょうから、あながち荒唐無稽の話ではない」
躍る「市民の正義」という文字
さて、「日本と原発 4年後」は、「福島原発告訴団」と河合監督らが東電の刑事責任を追及する歩みも記録している。
東電旧経営陣3人の強制起訴が決まった2015年7月、東京・霞が関の東京地裁正門前で、河合さんが支援者らに報告する場面もある。「3人とも起訴で、業務上過失致死傷です」。声が弾んで少し上ずっている。「市民の正義」という文字が掲げられて躍る。
映画で、河合さんは、検察審査会が示した強制起訴の理由を解説する。東電は2008年3月には、大地震発生の可能性を指摘した国の地震調査研究推進本部の「長期評価」(2002年)に基づき、最大15・7メートルの津波が原発を襲うと予測する子会社の試算結果を得て、防潮堤の設置などを一時検討していた。しかし、旧経営陣の一人、武藤栄氏(元副社長)が同年7月、土木学会に改めて検討を依頼すると方針転換した。それは「巨額な費用負担と長期間の原発運転停止を恐れた、津波対策の先送りだった」と指摘する。
「東電が執拗(しつよう)に隠し続け、闇に埋もれかけた重大事故の真の原因は、一般の市民が下した強制起訴議決を経て、これから法廷で明らかにされていくのです」。河合さんはその場面をこう結んでいる。
映画が伝える刑事責任追及の動きはここまで。裁判は東京地裁(永渕健一裁判長)であり、初公判の17年6月から結審まで公判は37回を数え、津波対策を検討した東電社員ら21人が証言した。同地裁は19年9月、全員の無罪を言い渡す。指定弁護士は控訴し、今は東京高裁での審理を待つところだ。【西日本新聞】