経済産業省は31日、東京電力福島第1原子力発電所で発生する汚染水の処分方法などを協議する小委員会に報告書案の修正版を提示した。海洋放出と水蒸気放出の2つの選択肢を示し、このうち海洋放出について「より確実に処分できる」とした。最終決定までに国が地元の意見を聞くなどの作業が続くが、福島の漁業者には改めて風評被害などへの不安や戸惑いが広がっている。
福島の漁業再生に向け、試験操業が進む(福島県相馬市の松川浦漁港)
報告書案では海洋放出と蒸発させる水蒸気放出が「現実的な選択肢」とし、海洋放出は国内の原発などで実績があることや、設備の取り扱いやすさなどから「より確実」と明記した。国は最終決定の時期などについては明らかにしていない。
福島県漁業協同組合連合会(福島県いわき市)の関係者は「海洋放出には反対という漁連の姿勢は変わらない。東日本大震災以降、積み上げてきた漁業再生への努力は無にできない」と話す。
県の漁業関係者は震災翌年の2012年6月に試験操業を開始。国が出荷可能とする魚介の放射性物質基準値1キログラム当たり100ベクレル以下に対し、県漁連は同50ベクレル以下という自主基準を設定。国の基準を上回る数値が出るケースもほとんどなく、操業対象魚種を震災前の数に近づけている。
福島県の沖合で捕れる魚介は「常磐もの」と呼ばれ、全国でも品質への評価が高かった。かつての評判を取り戻そうと、福島県相馬市に新設した県水産資源研究所では高級魚「ホシガレイ」の稚魚の生存率向上の研究に成功するなど、漁業関係者は地道な努力を続けている。
いわき市の漁業者は「海洋放出されれば、風評被害が強まるのは明らか。国はもっと地元漁業者の意見を聞き、丁寧な対応をしてほしい」と語る。
浜通り地域の別の漁業者は「海洋放出にはもちろん反対だが、結果的にそうなってしまうことも覚悟している。そうなったとしても、放出後の漁業者の暮らしをどう補償するのか、福島の漁業の再生、風評被害払拭にどう取り組むのか、国には具体的な対応を示してほしい」と憤った。
【日本経済新聞】