■教皇も言及、逆風下進まぬ電源論議
九州電力が玄海原発1号機(佐賀県玄海町)の廃炉を進めている。後に続く2号機と並行して令和36(2054)年度に作業を完了させる計画を原子力規制委員会に提出し、審査を受けている。ただ、順調な作業の裏側では「原発ゼロ」へのカウントダウンが始まっている。廃炉が完了して間もなくすると、現在稼働する九電の原発4基は法律上の運転期限を迎えるからだ。長期的な電源確保に向けた議論が求められるが、低調さは否めない。(九州総局 中村雅和)
5日、玄海1号機のタービン建屋内で進む廃炉作業が報道関係者に公開された。
「加圧水型軽水炉」(PWR)と呼ばれる方式を採用する玄海原発は、核燃料に直接触れてエネルギーを取り出す「1次系」と、受け取った熱で生じた蒸気で発電タービンを回す「2次系」に大別される。タービン建屋は2次系で、基本的な構造は火力発電所と変わらない。
この日は、蒸気発生器に送る水を温める低圧給水加熱器内にある伝熱管の撤去作業が行われていた。長さ16メートル程度の管を工具で切断し、手際よく取り出していく。今後は1次系の放射性物質を除去する作業や放射能の低減を待ち、格納容器などの解体も進める。
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原子炉等規制法では、原発の運転期限を原則40年と定める。20年間延長して運転できる制度はあるものの、追加の安全対策には1千億円単位の投資が必要だ。玄海1、2号機は運転40年を前に廃炉を決めた。
このほか、九電が稼働する原発4基については、60年へと運転期間延長が認められた場合も、川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の2基は令和27(2045)年までに、玄海原発も3号機が36年には期限切れとなる。残る玄海原発4号機も廃炉終了後の3年後、39年に運転開始から60年を迎える。
平成30年度、九電の発電電力量(757億キロワット時)のうち、原発(288億キロワット時)が占める比率は38%で、九州7県の市民生活や経済活動を支えるまぎれもない主力電源といえる。このままでは、それらは遅くとも約40年後にはすべて失われてしまう。
全国的な状況は変わらない。2060年代、国内で稼働可能な原発は北陸以北の5基にとどまる。建設中や計画中の原発は9基あるものの、現時点で先行きは不透明だ。
ある九州財界幹部は「電力は産業の血液だ。国はエネルギー政策でどのような方向を目指し、どこまでリスクを取るか示すべきだ。しかし、そんな姿勢は今のところ見られない」と批判する。
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一方で、「脱原発」の声は止む気配はない。
11月に来日したローマ教皇(法王)フランシスコは帰国する特別機中の記者会見で「完全に安全が保証されるまでは利用すべきではない」と述べた。中日新聞と東京新聞は社説で教皇の発言に触れ、「脱原発実現に向け、教皇のメッセージを心強く受け止めたい」(11月28日付電子版)などともてはやした。
しかし、皮肉なことに教皇の出身地、アルゼンチンでは、政府と中国国営の「中国核工業集団」による原発新設計画が進む。電力供給力の拡充に加え、世界的に地球温暖化対策が求められる中、温室効果ガスの排出量が多い火力偏重の電源構成を改善する狙いだ。
韓国でも今月6日、独自開発したPWR型原発2基の竣工(しゅんこう)式が行われた。原発の新設をめぐっては、韓国紙・中央日報は「科学は原発を選んだ」と題した社説(1月24日付日本語版)で、「理念から抜け出して徹底的に科学・事実・合理に基づいて応答することを望む」と強調していた。
新増設だけでなく、運転期間も柔軟に対応している例がある。
米原子力規制委員会は5日、フロリダ州の原発2基について、従来60年としていた期限を延長し、最大80年の運転を認めた。
日本では一連の電力システム改革で、競争環境が激化する中、電力各社は電源の開発など中長期的な投資が難しくなっている。
政府は昨年7月に閣議決定した「第5次エネルギー基本計画」で、原発を「重要なベースロード電源」と位置づけ、12(2030)年度の全電源に占める原発比率を20~22%とした。
ただ、それを実現するための再稼働や新増設についての議論は盛り上がっていない。次期基本計画でも「不人気な原発政策に踏み込むことはないだろう」(電力OB)との見方が支配的だ。
電力は最も重要な社会インフラだ。来年から第6次基本計画の策定作業が始まる。国は責任ある議論を主導すべきだ。【産経新聞】