関西電力の役員らが多額の金品を受け取っていた問題で、八木誠会長が9日、辞任を表明した。2日に開いた記者会見では続投の意欲を示していたが、急転直下で辞任に追い込まれた。この間わずか1週間。背景には何があったのか。
金貨や金杯、1着50万円相当のスーツ券――。関電は2日の会見で、役員ら20人が受け取っていた計約3億2千万円分の金品の詳細を明らかにした。1億円超受け取っていた幹部も2人いたうえ、八木氏も金貨63枚や金杯7セットを受領。スーツは2着仕立てていた。だが八木氏は「原因究明と再発防止策を図ることで、経営責任を果たしたい」などと辞任を否定していた。
これに対し、菅原一秀経済産業相は2日夜、「金額は法外。経営判断は当然するもの」と強く批判。省内では「電力業界全体の信頼を傷つけた。信頼回復には体制を一新して出直すしかない」(幹部)との意見が出ていた。菅義偉官房長官も「役職員が不透明なかたちで多額の金品を長年受領していたことは言語道断だ」と強い口調で非難するなど、官邸でも「辞めるべきだ」との声が大勢を占めた。
批判は政府だけにとどまらなかった。大株主の大阪市の松井一郎市長は「同じことを役所内でやれば、全員懲戒免職だ」と批判。3日には関西電力が新しく設置する第三者委員会に市が推薦する委員を入れるよう文書で申し入れ、認められなければ、臨時株主総会を招集し、役員の解任決議案の提出する構えをみせた。
また、関電が3原発を置く福井県の県議会では4日、関電への批判が相次ぎ、真相究明を求める意見書が全会一致で可決された。杉本達治知事は「立地地域との信頼関係を大きく損なう」。高浜町の野瀬豊町長は8日、朝日新聞の取材に高浜1、2号機について、「現状では再稼働は認められない。経営陣が責任を取らない限り、判断する状況は整わない」と踏み込んだ。
関電の会見以降も新たな疑惑が次々と明らかになり、八木氏らを追い詰めていった。90年代に原子力部門の幹部だった役員が金品の受領を証言。金品受領が20年以上も前から続いていたことが濃厚になった。
他の大手電力からは「どういう神経なのか。電事連に自浄能力がないと思われかねない」。関西財界からも「一番大事なのは、電力利用者の納得。なぜ、2人は社外の役職も含めて続投すると言ったのか」といった批判が相次ぐ事態に。「身内」からも突き放され、日本生命など社外取締役の辞任に追い込まれた。
7日には臨時国会の本格論戦が始まり、野党からの追及も始まった。安倍晋三首相も「徹底的に原因を解明することが不可欠」「経営問題も含め、再発防止などの措置を講ずることで、利用者の皆さんの信頼回復に努めることが必要」などと答弁した。
関電に対する「包囲網」が急速に狭められていく中、社内での求心力は急速に低下。ある幹部は「2回目の会見でも被害者という意識が抜けなかった。社外の声に触れて、ようやく問題の深さを認識した。うみを出し切りたい」と話した。【朝日新聞】