田中和徳復興相(70)は13日の閣議後会見で、東京電力福島第一原発事故の自主避難者について、「復興庁は担当の役所ではない」と発言した。復興庁は自主避難を含む原発事故避難者の生活を守る「子ども・被災者支援法」を所管し、東日本大震災の被災者支援全体には毎年100億円強の予算も使っており、専門家から疑問の声が出ている。
田中氏の発言は、原発事故で国の避難指示が出なかった地域からの自主避難者の一部が、福島県から避難先の住居の明け渡しなどを求められている問題に関するやりとりで出た。福島県内からの自主避難者は2017年3月末で1万2千世帯(約1万6千人)いた。国と県は同月末に家賃補助の打ち切りを始め、県は現在、国家公務員宿舎に住み続ける世帯に損害金の請求や、明け渡しを求めた訴訟の準備をしている。
田中氏は会見で、国の対応を問われ、「担当ではない役所があんまり明確に申し上げることは差し控えたい」と答えた。直後に秘書官からメモを渡された後、「訴訟では」と補足したが、県が避難中の県民を提訴するという事態の解決に復興庁が乗り出す考えは示さなかった。すべての自主避難問題についても「復興庁は財政、人材面で福島県の活動を支援している。福島県で責任をもって対応することになっている」と述べた。
田中氏は衆院神奈川10区選出で当選8回。11日の内閣改造で初入閣した。13日の会見では環境副大臣などを務めた経験から、「今まで復興には相当かかわってきた」と説明していた。
自主避難者をめぐっては17年4月、今村雅弘復興相(当時)が、故郷に戻らずにいることを「本人の責任」と放言し、避難者らから激しく非難された。今村氏は東日本大震災を「東北で良かった」とも公言し、復興相を更迭された。
原発事故の避難者問題に詳しい丹波史紀・立命館大准教授は「自主避難者は宮城県や関東からもいるので、福島県だけに責任を持たせるのは本来問題だ。安倍政権は原発事故からの復興は国が前面に立つと強調するが、産業誘致や風評被害対策に比べ、自主避難者への支援は明らかに腰が引けている。新大臣の『担当外』との発言から、政権の姿勢がにじんで見える」と話した。
原発事故被害者団体連絡会の武藤類子共同代表(66)は「言語道断。国策として進められた原発が起こした事故。国が責任を持って、すべての避難者を救済すべきだ」と話した。
自らも東京都内への自主避難者で、当事者でつくる「ひなん生活をまもる会」代表の鴨下祐也さん(50)は「私たちの存在が無視されていると感じる。どれだけ声をあげればいいのかと思う」と話した。【朝日新聞】