――ロスアトムと日本との関係は、いつごろから続いているのでしょうか。
核の平和利用で世界をリードしているロシアと日本は、強固なパートナーシップと長年にわたる協力関係で結ばれてきた。ウランの供給は協力分野の一つだ。2004年には、関連会社で、原発の燃料である濃縮ウランを扱うテネックス・ジャパンを設立し、日本の電力会社に供給してきた。福島第一原発事故前のピーク時、日本の大手電力10社のうち原発を保有する全9社に濃縮ウランを納め、シェアは約20%を占めた。
――福島第一原発の廃炉ではどんな作業に関わったのですか。
テネックス・ジャパンが率いるロシアの企業連合はすでに、日本企業から委託を受けた多くの仕事を終えた。例えば、破損した燃料の特性を研究するプロジェクトは3月に終了している。ただ、4月に原子炉内に溶け落ちた燃料(デブリ)と原子炉の内部の構造物を回収する技術開発事業を落札した。2年間の予定で、ロスアトム傘下の組織が、核燃料のサンプルを切除する実験などを続ける。
ロスアトム
2007年、それまでの原子力庁と原子力産業、核兵器産業を統合する形で発足した。行政とビジネスを合わせた特殊な組織形態は「例えて言えば、双頭の竜のようなもの」(デミン)だという。傘下に原子炉の設計・建設、ウランの採掘・濃縮・輸出、核燃料サイクル、人材育成などを担う300以上の企業や団体、研究機関があり、従業員の総数は約24万7300人。発足当初の社長は、元首相で原子力庁長官だったセルゲイ・キリエンコ。その後、16年に経済発展省の第一次官だったアレクセイ・リハチョフが就任した。日本支社は18年9月に設立された。
デブリの組成が分かることは、とても重要なことだ。デブリを取り出す方法や対処法などを検討できる。組成が分からなければ、触れることすらできない。炉の内部からデブリを取り出すのは廃炉で最も難しい作業の一つ。そこが、計画的に停止した炉の廃炉との大きな違いだ。我々の実験の成果は、溶解した燃料の断片を採取する作業の安全システム開発に用いられるだろう。
――福島第一原発以外の廃炉にも参入する計画はありますか。
もちろん、ほかの原発の廃炉にも関心がある。ロスアトム傘下の企業は必要な能力を全て持っており、喜んで日本の企業に技術的な知見を提供するつもりだ。
ただ、日本市場の規制はとても厳しい。我々だけで廃炉に貢献するのは不可能なので、いくつかの日本の原子力企業と交渉し、パートナーになれないか可能性を探っている。東芝や三菱重工などとは長い間関係があるが、パートナーシップとまでは言えない。ジョイントベンチャーもまだない。日本の原発の廃炉が本格化するのは2~3年後からだと考えており、それまでに日本企業とパートナーシップを結べると思う。
――支社開設は、日本企業との関係強化を狙ったものですか。
支社開設の主な目的の一つは、原発やそれ以外の部門で、日本企業とのビジネスのつながりを強固にし、新しい協力の機会を生み出すことにある。
昨年末には、日本の企業団にロシアの原子力産業と親しくなってもらおうと、技術分野の視察旅行を実施した。核施設を解体する際の科学的及び技術的な基本的事項や実践的な経験について学んでもらった。
個人的な考えだが、高速増殖炉の分野ではすばらしい機会を提供できる。私たちは、ロシア西部のディミトロフグラードで(高速炉の技術開発などを目的とした)多目的高速中性子研究炉(MBIR)に取り組んでいる。ロシア中部の町セベルスクで始めた野心的な「ブレークスルー」プロジェクトも重要なプロジェクトだ。高速炉や高濃度のウラン・プルトニウム混合燃料の生産施設、そして使用済み核燃料再処理施設といった実験と実証のための拠点だ。
――日本は高速増殖炉「もんじゅ」を廃炉にする決定をしましたが、一方でフランスの次世代実証炉「アストリッド(ASTRID)計画」への協力を打ち出しています。高速炉で日本と協力できると考えていますか。
日本はかなり前にASTRIDに協力する決断を下しており、私たちはコメントする立場にない。しかし、ASTRIDの能力は計画当初と比べ、非常に小さくなった。日本側がこの点に満足しているとは思わない。ロシアは商業的に稼働している高速増殖炉がある世界で唯一の国。ロスアトムはそれを運営している世界で唯一の会社だ。
――日仏の高速増殖炉はトラブルが相次いで廃止となりました。なぜロシアはうまく稼働させられるのですか。
私にも分からない。言えるのは事実だけ。ロシアが高速増殖炉で最も進んだ技術をもっている国だということだ。歴史を振り返れば、旧ソ連の時代から原型炉BN600があり、数年前には実証炉BN800が稼働を始め、電力を市場に供給している。さらにBN1200を計画中だ。
――日本の原発から出た使用済み核燃料の再処理を引き受けるつもりはありますか。
とても興味深くて複雑な問題だ。日本の原発で使用済み核燃料の貯蔵場所はいっぱいになりつつあり、青森県六ケ所村の再処理工場の開業は遅れている。政府や電力会社、自治体はこうした状況をとても心配している。一部は英国やフランスで再処理されているが、ロシアでは全く再処理されていない。
日本は米国と原子力協定を結んでおり、協力を広げるには制約がある。日本の使用済み核燃料を、ロシアで再処理するのはそんなに簡単ではない。禁止されているわけではないが、米国の技術や装置を使用した原発から生じた使用済み核燃料は、米国の許可なしに処理できないようだ。今のところ、ロシアで再処理することは検討していない。
――外国に原発を輸出する際、ロシアは高レベル放射性廃棄物の処分まで引き受けるとの報道があります。
ロシアでは、他国の放射性廃棄物を永久に保管することが禁止されており、どの国とも、放射性廃棄物を引き受ける協定を結んでいない。しかし、私たちが設計した原子炉から出た使用済み核燃料はロシアで再処理できる。例えば、東欧に造った原子炉から出たものは、ロシアに持ってきて再処理できる。再処理後は一時的に保管し、その国に戻す。原子炉を保有する国が使用済み核燃料の所有者となる。
――安倍政権は原発を「重要なベースロード電源」と位置づける一方、原発新設の計画はありません。廃炉以外でビジネスチャンスはありますか。
たくさんあると思う。日本政府は原発を国にとって最も重要な電源とみなしており、30年までに総発電量の20~22%を原発でまかなう計画だ。再生可能エネルギーによる発電についても研究開発しようとしているが、20~22%の目標を忘れてはいけない。
古い原発はいくつか再稼働されたが、ほかの原発が再稼働するにはまだ数年かかるだろう。原発の新設は、喫緊の課題ではないが、日本の専門家は(新設が必要だと)理解している。恐らくみなさんも原発は必要だと思うようになるだろう。
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