東京電力ホールディングスが、原発事業の継続に向け他社と手を組む異例の共同運営化に本腰を入れ始めた。これまで自力で運営してきた原発を他社の力に頼るのは、膨らむ原発の安全対策費用や難しい廃炉作業、首都圏での顧客離れなどで経営環境が悪化しているためだ。共同運営にすることで東電色を薄め、原発事業に携わることへの反発を和らげたい思惑もある。実現すれば、国内の原発事業の新手法になる可能性が高い。電力会社が重荷の原発事業を本体から切り離す動きも活発化しそうだ。
東電が共同化を探るのは、建設を中断している東通原子力発電所(青森県)。中部電力や原発メーカーの日立製作所、東芝の3社に新会社設立を打診した。東電は、平成29年に策定し国が認定した現在の経営再建計画に東通原発の共同事業化方針を明記。これに沿う形で4社は30年8月から原子力事業の提携をめぐって協議を進めてきた。新会社には地元との調整や運営、保守までを一貫して担わせる考えで、令和2年以降の設立を目指している。
国は東電に対して東通原発の建設を許可しており、1号機を平成23年1月に着工。当初の計画では29年3月に稼働予定だったが、東日本大震災を受けて工事を中断した。計画自体は白紙になってはないが、福島第1原発事故を起こした東電による原発建設には慎重な意見も多く、再開にはこぎ着けていない。4社連合にすることで、東電に対する国民感情を抑え、建設を再開させたいとの思惑もにじむ。
東電は電力小売りの全面自由化で最大市場の首都圏を東京ガスなど新電力に攻められ、30年度の販売電力量は自社原発全停止後の24年度に比べて14%減少した。顧客流出は今も続いており、これを止める切り札は安価に発電できる原発の再稼働との考えがある。関西電力のように、原発の再稼働で電気料金を引き下げることができれば競争力が出せるとみているためだ。
ただ原発事故後、原発の安全対策費用も膨らむ。東電は7月、柏崎刈羽原発(新潟県)の対策費用を約6800億円から2倍近くの約1兆1690億円に見直した。テロ対策施設など新規制基準への対応費用が大きく増えたことが要因で、改めて原発の再稼働に巨額の費用がかかることが浮き彫りになった格好だ。これを踏まえると、建設再開を目指す東通原発の費用は相当な額に上るとみられ、他社と分担したいとの考えもある。
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東電と中部電は、福島第1原発と同じ沸騰水型軽水炉(BWR)と呼ばれる原発を手掛けてきた。中部電も浜岡原発(静岡県)の再稼働は見通せず、人材の活用やノウハウの維持が課題となっている。
メーカー側は日立が1月に英国での原発新設計画の凍結を決め、東芝も海外案件から撤退している。日立の東原敏昭社長は「引き続き原発を推進していく」と表明しているが、原発輸出の頓挫だけでなく、国内でも新たな原発の受注が見込めず、苦境に追い込まれている。メーカーは原発の運転経験がなく、事故が起きた際のリスクへの懸念があるが、技術継承や人材育成の観点を踏まえると、協議には前向きだ。
4社の足並みがそろえば、新会社によるスクラム方式が原発事業の1モデルとして定着することもあり得る。とりわけ、東通の場合、隣接する形で稼働停止中の東北電力の原発がある。安全対策費用が重荷となっているのは東北電も同じ。4社連合で東電色が薄まっているのであれば、東北電も新会社への参加を検討しやすい。
東電の小早川智明社長は、以前から東通原発について「新規制基準への対応を含め貢献できる点は一緒にやろうと申し上げたい」と述べており、東北電に協業を呼び掛けてきた。原発が立地する地元の電力会社が加わる5社連合であれば、関係自治体や地域住民の東通原発に対する見方が大きく変わる可能性も高い。
さらに東電、中部電は柏崎刈羽、浜岡両原発の運営を新会社に委ねる構想も描く。特に柏崎刈羽原発は、国に再稼働が認められても地元は同意せず進展しない。新潟県では「東電のままでは原発の稼働はだめだ」という声は根強い。新会社が再稼働への道を開くのではないかという期待も大きいようだ。
「原子力事業を1社でやるのは無理だ」。こんな発言を複数の東電社員から聞いた。東電が単独路線に見切りをつけたことで現実味を帯びてきた共同運営化が、今後の原発事業を占う試金石となりそうだ。【産経新聞】