東京電力ホールディングス(HD)の福島第2原子力発電所の廃炉が正式に決定した。すでに廃炉が決まっている第1原発と合わせ、福島県内の全原発が廃炉となる。第2原発の地元自治体は廃炉作業や関連の研究などが新たな産業に育つことを期待するが、核燃料の安全な処理や原発立地に伴う交付金の縮小といった課題も多い。廃炉開始後の地域再生は手探りが続きそうだ。
7月31日、東電HDの小早川智明社長は県庁と立地自治体の楢葉・富岡両町で第2原発の廃炉を報告した。内堀雅雄知事は「第1、第2原発の全基廃炉を着実に進め、使用済み核燃料の全量県外搬出の約束をしっかりと実行してほしい」と改めて訴えた。
廃炉にあたって東電HDが県と両町に示した項目は3点。廃炉を終えるのは40年超の期間を要する▽廃炉完了までの県外搬出を前提に、敷地内に使用済み核燃料の乾式貯蔵施設を設ける▽廃炉作業への地元企業の参画など地域振興に努める――というものだ。貯蔵施設の設置などに両町では不安の声も出たが、協議の末、受け入れに踏み切った。
両町は米作りを基幹産業としてきた地域だ。だが人口減少と地域の衰退から第2原発の誘致に生き残りをかけた。
楢葉町によると、第2原発の立地に絡んで国から出る「電源立地地域対策交付金」は年間約10億円。東電HDからは固定資産税が毎年10億円前後納められてきた。富岡町もほぼ同じだ。東日本大震災前、これらの収入が歳入に占めた比率は楢葉町で4割、富岡町も2割強に上っていた。
東電HDが廃炉を国に届け出れば同交付金の給付は終了する。その後、激変緩和措置として別の交付金が支給されるが、年を追って段階的に減り続け、10年後には完全になくなる。固定資産税も施設や部品の解体・廃棄、新設などで変動し、減少する可能性も見込まれる。町の財政にとっては大きな痛手だ。
こうした事情にもかかわらず、地元が第2原発の廃炉を強く要望した背景には、住民の「脱原発」への強い思いがある。今年3月に復興庁と県、富岡町がまとめた避難者を含む住民へのアンケート調査では、調査対象の3~4割が、古里へ帰還しない理由について、原発の安全性や放射性物質への不安を挙げた。
今後、県や両町が期待するのが、第2原発廃炉にからむ地域再生や産業振興だ。東電HDはこれまでに、廃炉に伴う作業への地元企業の参入や、復興関連事業への参加を表明している。従来のような原発の維持・管理だけでなく、廃炉に関する専門的な知見や技術を持つ人材の育成を、県や両町は同社に申し出ている。同社は大学などとも連携した技術者の育成も検討するとみられる。
福島県の太平洋沿岸地域などでは震災後、ロボットやAI(人工知能)、医療分野をはじめ、新産業の研究・開発拠点に育てようと、福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想の取り組みが進む。同構想には廃炉に関する事業も組み込まれ、再生可能エネルギーの開発なども含め、楢葉・富岡両町への産業集積も期待される。
富岡町生まれで、津波で自宅を失った同町役場の男性職員は「第2原発の廃炉を機に研究機関なども構築され、国内外の専門家が廃炉のノウハウを学ぶ拠点となればいい。廃炉を基幹産業として生かせるか、東電や国の今後の取り組みを注視したい」と話す。
第2原発の廃炉を巡る立地自治体の課題は多く残る。使用済み核燃料の最終処分場を国内のどこに置くかは決まっていない。本当に廃炉終了までに県外に運び出せるのか、原発立地などに伴う交付金に代わる財源をどう確保するのか、先行きは見えない。
今月8日、内堀知事とともに、世耕弘成経産相に福島市内で面会した楢葉町の松本幸英町長は「復興には震災前以上の行政サービスが必要だ」と説明。富岡町の宮本皓一町長は、第2原発の廃炉に絡む新産業育成と共に交付金の代替措置の必要性を訴えた。世耕経産相は「財政当局としっかり調整したい」と答えるにとどめた。
不確定要因を残したまま、廃炉に一歩踏み出した福島県の沿岸地域。地元議会などでは、東電HDなどから地域に十分な説明がなかったことへの不満もくすぶっている。東電HDはもちろん、国や地元自治体は住民に寄り添い、丁寧な説明や情報提供を尽くす必要がある。
■避難住民、進まぬ帰還
福島県沿岸地域の復興の大きな課題は住民の減少だ。日本各地で人口減が進む中、同地域では福島第1原発事故で大半の住民が避難し、今も多くが帰還していない。避難した住民が安心して戻れる生活環境の整備と、廃炉を見据えた経済振興策が求められる。
原発事故に伴う避難指示が出た市町村のうち、現在も帰還困難区域が残る自治体は全町避難が続く双葉町を含め7市町村。同区域を除いた住民の帰還率(6月末~7月初めの住民登録に対する居住者数)は、浪江町が7%、富岡町が11%、楢葉町が54%などで、第1原発に近いほど低い傾向にある。
第1原発が立地する大熊町は4月に一部で避難指示が解除され、帰還率は17%。1割を超えたものの、解除された地域がもともと町の中心部でなく、居住者が66人と、地域の再生には厳しい状況が続く。
住民の帰還が思うように進まない状況に加え、子供や若い世代の帰還者が少ないことも深刻な課題だ。地域の復興と、多くの世代が戻れる古里づくりへ双葉郡の自治体などが進めているのが「ふたばグランドデザイン」の構想だ。
構想は第1原発の廃炉が完了する2050年を実現時期とし、コンパクト・スマートコミュニティ、国際コンベンションリゾート、芸術の杜など、多彩な整備案を検討している。第2原発の廃炉に絡む地域振興とともに、住民らは構想の進み具合を注視している。【日本経済新聞】