太陽光発電は家庭用だけでなく、メガソーラーでも自家消費がキーワードだ
太陽光・風力発電事業者の起こした電気を、電力会社があらかじめ決めた価格で買い取る固定価格買い取り制度(FIT)が終了する。余剰電力買い取り制度の対象だった住宅用太陽光発電設備も11月以降、順次買い取り期間を終える。令和時代の太陽光発電は「売る」から「使う」に賢くシフトできるかが問われる。
買い取り期間を終えた家庭用の太陽光発電設備を「卒FIT」と呼ぶ。資源エネルギー庁によれば、2019年中に全国で約53万件(約200万キロワット)発生し、23年には累計165万件(約670万キロワット)に達する。ただ太陽電池の寿命は長い。1983年に設置したシャープ製の太陽電池は、30年たっても出力低下は6%台にとどまったという。
稼働年数が10年の卒FIT設備は引き続き発電でき、まだまだ使える。電気は電気自動車(EV)や蓄電池にためて自家消費する、あるいは自家消費であまった分を小売り電気事業者や電力会社と相対で契約を結び売電する――のいずれかの手段で活用できる。
蓄電池やEVを個人で購入するのは、高価でハードルが高い。だが初期の太陽光発電設備は1キロワット時当たり48円で売電でき、初期費用を回収済みだ。安く売電しても利益は出る。経産省も屋根から下ろした太陽電池が膨大な産業廃棄物にならないように自家消費をテコに利用継続を促す。
家庭用だけでなく、メガソーラーでも自家消費がキーワードだ。大企業が電力会社から購入する電気は、条件が良くて1キロワット時当たり14円程度。そこに再生可能エネルギーの普及を目的とした賦課金が同2.95円上乗せになる。
直近のメガソーラー発電単価は同6円程度にまで下がっている。賦課金は電力会社の電気メーターが回った分にだけかかる。太陽光発電設備の設計・施工を手掛けるアルバテック(東京・中央)の高木隆会長は「メーターが回らない自家消費は賦課金の負担がなく、同11円近い差益が出る」と話す。大きな屋根を持ち、冷蔵・冷凍庫を24時間動かす物流倉庫や大手スーパーなどは特に向いている。
自家消費する事業所とメガソーラーの場所が離れていると、電気料金の3~4割程度という高い託送料金を電力会社などに支払わなければならないが、同一敷地内で自前の電線「自営線」を敷けば託送料は節約できる。
太陽光発電の場合、曇りの日や夜間は電力会社などの電力を購入する必要があるため、全てを自家消費で賄うのは難しいが、賢く使えば電気料金を安くすませることができそうだ。
自家消費には新たな追い風も吹く。事業で使う電力を全て再生エネルギーで賄うことを目指す「RE100」運動だ。
14年に英国の非政府組織(NGO)ザ・クライメート・グループが主導し発足した。米アップルや英蘭ユニリーバなどのグローバル企業が参加。日本ではソニーや富士通、積水ハウス、大和ハウス工業など19社が加盟し、さらに増えつつある。
RE100企業は50年までに再生エネルギーだけで電力を賄うことを約束し、その進捗状況を毎年報告しなければならない。自家消費用のメガソーラーだけでは足りず、卒FITの電気を積極的に引き取る動機も働く。エネルギー事業に強いある大手商社の担当者は「RE100が太陽光発電の新たな推進エンジンになる」と話している。
【日本経済新聞】