日本原子力発電(原電)の経営環境が厳しさを増している。保有する原子力発電所すべてが停止する状態が続くなか、23日に発表した2019年3月期連結決算は2年ぶりの営業減益となった。唯一、再稼働に向けた「合格」を取得済みの東海第2原発(茨城県東海村)は自治体との調整が難航し、他電力による資金支援策がまとまらない。
前期決算は連結営業利益が74億円と18年3月期に比べ20%減った。他電力からの収入減が響いた。収益改善に向け、村松衛社長は「東海第2原発の再稼働に向けた対応を全力で進める」と述べた。
原電は原発専業だが保有する4原発とも動いておらず、そのうち2基は廃炉が決まっている。電力の卸売先である東京、東北、関西、北陸、中部の各電力から合計1千億円の基本料金を毎年受け取ることで何とか黒字を確保している。残る2基のうち敦賀2号機(福井県)は原子力規制委員会に活断層の存在を指摘されており、再稼働は厳しい状況だ。抜本的な収益改善には東海第2原発の再稼働が不可欠だ。
原電は18年3月、東海第2の周辺6市村と、再稼働前に「事前了解」を得ることを確認する協定を結んだ。自治体側は1市村でも反対すれば再稼働できなくなったと受け止めたが、原電幹部がその後「拒否権という言葉は協定にない」と発言したことから不信感が高まっている。
安全対策工事の資金調達も課題だ。必要額は従来の1740億円から3000億円規模まで膨らんでいるようだ。原電の筆頭株主である東京電力ホールディングスや東北電力が中心となって支援する方針だが議論は難航している。電力自由化で顧客流出に歯止めがかからないなか、支援額を積み増してまで東海第2から電力を買うべきかどうかを検討しているとみられる。
東海第2は稼働から約40年がたち、あと20年間しか運転ができない。工事認可から5年以内にテロ対策設備を完成させる必要もあり、東海第2の場合は23年10月が期限だ。間に合わなければ、工事が終わる21年以降に再稼働できてもまた停止に追い込まれる可能性もある。
再稼働が不透明な中、原電は収益の底上げに向けて廃炉支援の事業化に向けた検討を始めた。国内の商用炉として初となる東海原子力発電所(茨城県)の廃炉作業を進めており、このノウハウを生かして廃炉のコンサルティング事業を確立できるか検討している。
事業化に向けては、16年から協力関係にある米廃炉大手、エナジーソリューションズと合弁会社を設立することも模索している。ただ、電力大手からは「原電の支援がなくとも廃炉は進められる」との冷ややかな声もある。電力会社から受け取る基本料金は今期、1千億円を割り込む見通し。このままではじり貧になりかねない。【日本経済新聞】