経団連は8日、エネルギー政策の新たな提言を発表した。原発の運転期間について、今の最長60年より延ばすことや停止期間を運転期間に含めないようにして事実上延ばすことを初めて求めた。東日本大震災後、地元の同意を得られずに再稼働できない原発も多い中での運転期間の延長要求に、原発に慎重な民間団体からは批判も出ている。
提言のタイトルは「日本を支える電力システムを再構築する」。エネルギーに関する提言は2017年秋以来で、今回は昨春に会長についた中西宏明氏が主導した。中西氏は原発メーカーの日立製作所会長だ。
提言ではまず、大震災後に発電の8割を火力に依存し、太陽光などの再生可能エネルギーにも限界があると指摘。「日本の電力は危機に直面している」とした。その上で原発の再稼働や新増設を改めて求め、再生エネを増やすための送配電網の拡充も訴えた。
そして、法律で40年と定め、1回に限って最大20年間の延長が認められている原発の運転期間について、米国のケースを引き合いに出しながら「60年よりもさらに延長した場合の安全性についても技術的観点から検討を行うべきである」とした。さらに大震災から8年たったことを「40年の2割に相当する」とし、安全性に配慮しながら運転期間から差し引くよう求めた。
原子力規制委員会によると、今のところ運転期間を議論する予定はないという。ただ、中西会長は会見で「(温暖化対策を進めるには)原子力の比率を高めるのが一番現実的。それができないときにどういう選択肢があるのかも考えていきたい」と、原発の積極的な活用に意欲を示した。
ログイン前の続き中西会長は昨年暮れから、エネルギー政策について「国民的議論が必要だ」と政府などに求めてきた。この日の会見でも「電力システムは社会の課題。専門家だけでは解決できない」と幅広い議論を呼びかけた。
背景には、昨年7月に閣議決定された新たなエネルギー基本計画に国内での原発新増設が盛り込まれず、日立など海外への原発輸出も頓挫する中、電力会社もメーカーも原発事業を続けることが難しくなっていることがある。
ただ、原発に慎重な民間団体「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」が公開討論を申し入れると、中西会長は「エモーショナル(感情的)な反対をする人たちと議論をしても意味がない」と拒否した。同連盟の河合弘之幹事長・事務局長は「我々を避けて身内の原発賛成派だけで議論するなら国民的議論とはいえない。経団連会長という立場を使い、自分の会社(日立)に有利になるよう『我田引水』型の提案と言われても仕方がない」と、運転延長要求などを批判する。
一方、政府は今夏の参院選を控え、原発政策の争点化を避けたい考えだ。世耕弘成経済産業相は「経産省としては引き続き、地道な情報提供の努力をまずは続けていくことが重要と思う」とし、新たな議論の場の設置には消極的な考えを示している。(加藤裕則、桜井林太郎)
経団連の提言の主なポイント
・危機的な停滞が続く電力投資を活性化する必要がある
・2030年以降の電力システムの将来像を示すことを求める
・再生可能エネルギーの支援制度は極めて重い国民負担。抜本改正は急務
・原発は脱炭素化を目指していく上で不可欠なエネルギー源。建て替えと新増設を政策に位置づけるべきだ
・原発が稼働していない期間は、40年ないし60年の運転期間から控除すべきだ。60年より延長した場合の安全性も検討すべきだ
・電力インフラへの資金調達手段として財政投融資の活用を検討すべきだ
【朝日新聞】