東京電力福島第一原発事故で福島県から各地へ避難した人たちが、統一地方選で立候補の動きをみせている。原発への憤り、被災者への支援、政治の役割……。被災の経験から気づいた思いを訴えに込める。
福島県川内村から岡山県内に移り住んだ女性(45)は県議選に立候補した。2016年の県議補選で初当選し、再選を目指す。
福島で農業や大工をして生活している時に、約20キロ離れた原発が爆発。夫と5歳の息子、1歳の娘と共に、実家のある岡山に避難した。「世界が終わってしまったようだった」
岡山で11年、避難者を支える市民グループを設立。避難家族の交流会を開いたり、福島の親子が保養に訪れられる場を設けたりしてきた。
政治への関心が芽生えたのには、活動を支えてくれた女性県議の存在がある。福島の親子の支援活動に、無償で施設を貸すよう県に働きかけてくれた。「私たちの声を議会に届け、市民活動を行政とつなぐ役。私にとっての希望でした」。県議が病死し、後継になろうと決意した。
県議会で初めての一般質問では「当たり前に感じる安心・安全は、原発事故で移住してきた人にとってはかけがえのない価値だ」と訴え、県の防災ハンドブック作りにも参加した。
そして、昨夏の西日本豪雨。岡山県も大きな被害を受けた。「これからも被災者に近い目線で支援策を提案していこうと思う」
福島県郡山市から北海道へ避難して8年となる男性(41)は、江別市議選に立候補する予定だ。
原発事故の直後、放射線量への不安をぬぐえず、妻や子ども3人と北海道へ。避難者の交流事業に関わりながら、障害者介助の仕事に就いてきた。
政党から声がかかったことを機に、議員という道を考え始めた。原発事故で政治への不信は大きく、街頭で演説に立ちはじめたころは「原発ゼロ」しか言葉が出なかったという。だが議員になれば、障害者や子育て世代、高齢者たちの手助けになれると思い至った。そうした人々を「なんとか支えたい」。いまはそう訴える日々だ。
北海道では2月にあった東川町議選で、郡山市から避難した鈴木哉美(かなみ)さん(54)が当選している。
町政とかかわるようになったのは、13年に図書館建設の公募委員になってから。町民の声が町に伝わらず、町の考えも町民に伝わらないと感じ、その間に立ちたいと思った。
福島では、身近な政治にほとんど関心がなかった。「関心を持っていても原発事故を防げたわけではないかもしれない。ただ、まずは身近なところから、おかしいことにはおかしいと声をあげなければ」と語る。
■統一地方選に立候補する福島避難者の思い
【福島県鏡石町→北海道江別市議選】
主婦(35)
「原発事故をきっかけに、自分たちの街のことについて自分たちでかかわることが大切だと思った」
【福島市→北海道赤平市議選】
学習塾経営(59)
「北海道の人たちにお世話になったので、恩返しをしたい」
【福島県須賀川市→千葉県船橋市議選】
元市議(44)
「原発ゼロを実現するためには首都圏で訴えるしかないと思った」
【福島県郡山市→新潟県議選】
主婦(45)
「いつまでも避難者でいられない。世の中を変えたいなら自分で動かないと」 【朝日新聞】