東京電力福島第1原発事故から8年がたち、避難指示区域外から自主避難する人たちへの行政支援は年々細る。「原発事故は国の責任。被害者の切り捨てはおかしい」。孤立や困窮、偏見に立ち向かい、東京都内で暮らす人々に率直な思いを聞いた。(東京支社・瀬川元章、片山佐和子)
「一番上は小学5年生。もうこっちが地元」。福島市から避難し、武蔵野市の都営住宅で子ども4人を育てる岡田めぐみさん(36)は8年間を振り返る。
避難者やボランティアらが集まり、月1回お茶飲み話をする「むさしのスマイル」を2012年に設立した。つながりが広がる中で、事故のことをまだ子どもにきちんと話せていない母親が多いと感じる。
いじめが心配。でも、若い世代に伝えていかないと風化が進む-。月日がたっても、なかなか一歩が踏み出せない。
岡田さんは「原発事故子ども・被災者支援法」のたなざらしを問題視する。与野党の全会一致で12年に議員立法で成立した。「子どもに特に配慮し、居住、避難、帰還を被災者の意思で選択できるよう適切に支援する」との理念を掲げるが、具体的な支援策は明記されていない。
「国も福島県も相手任せ、責任のなすりつけ合い。被災者の権利はあっても、予算も実施主体も分からない最悪のパターン」と岡田さん。「当事者でさえ知らない人が多い。声を上げて、この法律を生かすべきです。未来は一つ一つ変えられる」と訴える。
田村市から葛飾区の都営住宅に避難した熊本美弥子さん(76)は「住宅は生活の基本」と、安息の地を得られず追い詰められる仲間に寄り添う。
自主避難者への住宅の無償提供は17年3月に打ち切られた。今年3月末は国家公務員宿舎の退去期限に当たり、低所得の約2000世帯を対象にした家賃補助制度も終了する。
熊本さんによると、退去届の提出を迫られて動揺し、仕事を辞め、心身に不調を来した人がいる。長時間勤務を強いられ、家賃の安い物件を探す余裕がなく「4月1日に強制的に荷物を出されるのでは」と焦りを募らせる人もいる。
県は自主避難者の実態調査をしようとせず、帰還を前面に打ち出す。熊本さんは「かえって県が貧困をつくり出しているのではないか」と疑問を投げ掛ける。【河北新報】