東京電力福島第一原発の事故の影響で、神奈川県に避難をした60世帯175人が東電と国を相手取り、計約54億円の賠償を求めた訴訟の判決が20日、横浜地裁であった。中平健裁判長は東電と国の責任を認め、原告152人について、計約4億2千万円を支払うよう命じた。
福島第一原発の事故を巡る集団訴訟は全国で約30件起こされており、判決は今回で8件目。8件すべてで東電に賠償が命じられ、国が被告となった6件のうち5件で責任が認められた。
訴訟では、東日本大震災と同じ規模の地震が発生し、津波で原発の建屋が浸水して全電源を失う恐れがあることを予見できたかどうか、などが争点となっていた。判決は、「2009年9月時点で敷地高を超える津波が到来することを予見することが可能だった」と認定した。
判決はさらに、原発敷地内の電源設備を移設すれば爆発事故は防げたのにこれを怠ったとして、被告側の責任を認定。国については、「発電施設が技術基準を満たすように命じることができたのに、怠った」とも判断した。その上で、避難者の平穏生活権などの侵害を認め賠償を命じた。
今回の訴訟を起こしていたのは、放射線量が高いなどの理由で避難指示などが出された区域からの避難者44世帯125人と、自主避難者16世帯50人。「ふるさとを喪失し、生活を破壊された」ことへの賠償として1人あたり2千万円を請求していたほか、不動産や家屋に対する損害賠償なども求めていた。
判決を受けて東電は「事故により福島県民の皆様をはじめ、広く社会の皆様に大変なご迷惑をおかけしていることについて改めて心からおわび申し上げます。今後判決内容を精査し、対応を検討して参ります」などとコメントした。
原子力規制庁は「国の主張について裁判所の十分な理解が得られなかったと考えている。いずれにせよ引き続き適切な規制を行っていきたい」とコメントした。
東京電力福島第一原発の事故をめぐり、横浜地裁が国と東電の責任を認める判決を言い渡した。訴訟を起こしていた避難者は国も賠償を命じられたことを評価し、「その前提で対応して欲しい」と求めた。
判決は午前10時に言い渡された。原告団数十人は、弁護側の後ろの席に座って、じっと中平健裁判長の言葉に耳を傾けた。判決後、団長の村田弘(ひろむ)さん(76)は「最後の頼みである司法の場で、我々の主張が認められる判決が次々と出ている」と評価。「国は事故処理が終わったという前提で施策を進めているが、避難が続くという実態は変わらない。責任をもって対応して欲しい」と求めた。
原告の一人の50代女性は現在、横浜市泉区で一人暮らしだ。夫は福島県におり、約7年半の間、会うこともままならなかった。判決を前に「突然、自分の日常が断ち切られ、この先どうしたらいいのかも考えられない。東京電力に責任を取ってもらわないと気が済まない」と話した。
女性は東日本大震災時、福島第一原発から20キロ圏内にある福島県南相馬市小高区で暮らしていた。地震の後、友人や知人から「原発の事故がとんでもないみたい」「できるだけ早く福島を離れることを考えて」とメールが届いた。事故から1週間後、カバン一つだけで、東京で暮らしていた息子の元へ。半年か1年の間、避難するかぐらいの気持ちだった。
東京で暮らすと、地元ではほとんど入ってこなかった事故の情報を得ることができた。同じ年の夏、横浜市に居を構えることを決めた。経営していた進学塾は自然解散した。女性は「生活を破壊され、コミュニティーや仕事を奪われた。社会に置いてけぼりにされているような気がした」と語る。夫は、経営する建設会社の従業員の生活などを心配し、福島県にとどまる決断をした。現在も南相馬市の別の地域で暮らす。
【朝日新聞】