東京電力福島第一原発事故に伴い住民が集団で申し立てた裁判外紛争解決手続き(ADR)の和解案を東電が拒否し、打ち切りになる事例が相次いでいることを受け、計約二万四千人の住民を支援する県内の六弁護団は原子力損害賠償紛争審査会に中間指針の見直しを求める申し入れ書を提出した。
ふくしま原発損害賠償弁護団が十八日、県庁で記者会見して明らかにした。申し入れは十七日付。文書には(1)損害の判定基準となっている中間指針の早期見直し(2)ADRの申し立て内容を中間指針に組み込んで賠償額を調査する(3)東電に対し和解案拒否を改めるよう強く指導・勧告する-などを盛り込んだ。
弁護団の平岡路子弁護士(36)=相馬市=は会見で「地域ごとの実情に応じた中間指針にすべき。東電が拒否回答を続けるようでは、ADRの存在意義がなくなってしまう」と反発した。昨年十二月に手続きが打ち切られた川俣町小綱木地区原発事故被災者の会の清野賢一会長(72)は「今でも苦しい現状が続いている。(国と東電には)生活再建を目指す被災者の立場を理解してほしい」と訴えた。
和解案は国の原子力損害賠償紛争解決センターが提示する。弁護団によると、東電の和解案拒否による原発事故の集団ADR打ち切りは二〇一八(平成三十)年から相次ぎ、昨年は少なくとも六件、今年は一件ある。中間指針を上回る賠償額が示された場合は東電が拒否する姿勢が続いている。理由はいずれも「賠償額は中間指針に基づいており、被災者間の公平さを考慮すると増額はできない」としている。
■24件中、打ち切り7件 和解せず協議継続も 弁護団
ふくしま原発損害賠償弁護団によると、十八日現在、原発事故により申し立てた県内の集団ADRは少なくとも二十四件ある。このうち、七件が東電の拒否回答で打ち切りになった。他にも東電が和解案を受け入れないため、協議を続けているケースがあるという。
和解案受諾の可否には法的拘束力がなく、専門家は仕組みの形骸化を指摘している。原発賠償を研究している大阪市立大の除本理史教授(47)=環境政策論=は「一つの地域で中間指針を上回る賠償を認めると、他の地域でも賠償増額を求められる恐れがある。こうした理由から東電は和解案を拒否しているのではないか」と分析。打ち切り後は訴訟に移行するしかなく「裁判は費用と時間がかかる。被災者を救うためにも、制度の改善を考える必要がある」と話した。
東電は福島民報社の取材に「熟慮を重ねた結果、和解に至らなかったケースもある。今後、住民の方から請求があれば誠実に対応していきたい」とコメントした。【福島民報】