東京電力福島第1原発の廃炉をめぐり、平成30年は「停滞」が目立つ年となった。秋に予定されていた3号機の使用済み燃料取り出し開始はトラブル続きで延期され、年内の結論が期待されたトリチウム水の処分方法決定は、国の小委員会の議論迷走でめども立たなかった。どちらも「第1原発のリスクを減らす」という命題に逆行し、廃炉の行く手に影を落としている。
品質管理で“落第”
「品質管理体制を、足下から整え直したい」
東電の廃炉・汚染水対策責任者を務める小野明氏(福島第1廃炉カンパニープレジデント)は30年12月27日の会見で、翌年の課題を問われ、こう述べた。メーカーにとって基本中の基本を「重要課題」として挙げなければならないほど3号機をめぐるトラブルは多く、しかも“初歩的”なものが目立った。
3号機の燃料プールでは566体の燃料が冷却中。取り出しの目的は、23年の水素爆発で損傷した原子炉建屋から燃料を構内プールに移すことで、リスクを低減することにある。
国と東電が策定した廃炉作業の中長期ロードマップでは取り出し開始は30年度半ばとされ、30年3月中旬から機器の試運転を始めたが、まず電圧の設定ミスで制御盤が焦げてストップ。雨水によるケーブルの腐食で燃料取り扱い機が停止したり、多くのケーブルで抵抗値の異常が確認されたりと問題が続発し、9月に取り出し延期を決定した。
その後に行われた安全点検は12月26日に完了したものの、14件の不具合が判明。「点検時にプレートを逆さに取り付けた」という原因もあった。
カンパニー疑問視
9月には廃炉の安全性を監視する原子力規制委員会から「みっともない原因」(田中知委員長代理)と声が上がり、規制委は東電に製品を納入した東芝の担当者を会合に呼ぶなど異例の対応を取って再発防止を求めた。また、3号機のトラブル続きで、廃炉作業が社内カンパニーに移管されていることを疑問視する声も生じた。
東電が11月、原子力事業を社内カンパニー化する方針を示したのに対し、規制委の更田(ふけた)豊志委員長は12月12日の定例会見で「3号機の使用済み燃料の取り出しであれだけ下手を打っておいて、カンパニー化がいいことですと、どうして言えるのか」と組織体制そのものに疑問を呈すにいたっている。
一方、トリチウムを含む処理水が増え続けている問題についても、光明は見えてこない。
12月下旬時点で原発構内に99万トンが貯蔵されており、東電は32年末までにタンクを137万トンまで増設する計画を立てているが、その後は決まっていない。海洋放出を求める規制委は、更田氏が30年初頭に「今年中に意思決定ができなければ新たな困難を迎える」と指摘、11月には国際原子力機関(IAEA)の調査団も処分方法の決定を喫緊の課題に挙げたが、方法を検討する国の小委は、12月28日の会合でも結論の時期を示せなかった。
「生活再建遅らせる」
30年5月の時点で事務局の資源エネルギー庁の関係者は「秋か年内には結論を出せるのでは」と楽観的な見方を示していた。その流れが止まったのが、8月下旬に福島県などで開いた公聴会。同県の漁業関係者をはじめとした意見発表者の大半が海洋放出に反対したのに加え、トリチウム以外の放射性物質も処理水に含まれているとした報道で「公聴会の前提が崩れた」と批判が噴出し、小委の議論は結論に向かうどころか、事実上のリセットに近い格好になった。
トリチウム処理水をめぐっては、25年12月に処分方法を検討するトリチウム水タスクフォースの初回会合が開かれ、28年5月に報告書をまとめた。これを受けて同年11月に設置されたのが現在の小委で、社会学者を入れて風評被害対策も検討している。小委は現在、公聴会で出された意見について議論を続けており、30年11月30日の会合ではタスクフォース時代から委員を務める田内広・茨城大理学部教授がトリチウムの性質についてスピーチ。冒頭、「この委員会でコテコテの科学の話をするとは思っていなかった」と苦笑した。
公聴会を受けた議論は今年も続く見通しで、事務局は12月28日の会合後、「早く結論を出さなければという認識はあるが、拙速な結論は逆に社会的影響が大きくなる」と結論を急がない姿勢を見せた。一方、同日の会合ではジャーナリストで環境カウンセラーの崎田裕子委員が「処分までに時間をかけることは、逆に福島の方たちにとっては生活再建を遅らせることになる」と指摘した。
取り出し目標は変えず
3号機の燃料取り出しについて、東電は12月27日の会見で不具合対策を今年1月中旬に完了、3月中に着手する予定を示した。作業が本格化するのは夏からだ。中長期ロードマップでは32年度内に取り出しを終えるとしており、スタートが遅れたことについて小野氏は「作業員の習熟効果などを考えれば、日数は減らせる。今からロードマップに示されている目標を降ろす必要はない」と述べた。
だが、より困難な溶融核燃料(デブリ)取り出し作業が先に控える福島第1原発で、使用済み燃料取り出しでもたつく東電への不信感は、簡単にはぬぐえないだろう。ここで停滞していて先に進めるのか。不安と不信を払拭するには、まず3月の取り出し着手という実績を示すしかない。
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トリチウム処理水 福島第1原発の原子炉建屋に地下水が流入するなどして生じた汚染水を多核種除去設備(ALPS)で浄化したもの。水と一体化したトリチウムは除去できないが、トリチウムはエネルギーが弱く、人体に蓄積しない。国の小委員会などは処分方法として海洋放出▽地層注入▽水蒸気放出▽水素放出▽地下埋設-の5つを候補とし、さらに風評被害を防止する施策を検討している。【産経新聞】